第184話 桜花恋歌 その42

文字数 395文字

「ずるいじゃないですか。先輩、何で笑ってるんですか。
  俺だけ泣くなんてズルイ……。」

うつむいて涙を拭った。

「たかもり、……ありがとう」

先輩は木霊の手を振り払って、ふわりと渡殿を飛び降りた。

受け止めようとして伸ばした両手。
羽のように軽い先輩の体重。
ぎゅっと抱きしめてスカをくらいひざまづいた。
先輩の羽織っていたかつぎを虚しくかき抱いて。

……角田先輩の気配が消えた。

「あっ、うそ、なんで……!」

あたり一面……舞い散る花びらで薄紅色に染まって景色が霞んだ。

俺は狼狽(うろた)えた。
さっきまで目の前にいた先輩が腕をすり抜けて消えてしまった。

「イヤだ。こんなの、嘘だ!」
 地面に拳を叩きつけた。

「こんなの、夢だ。返せよ。先輩を返してくれよ」

せんぱい、どうして消えたんですか。先輩。せんぱい。
気が付くと俺は枝垂桜の古木の前で絶叫していた。
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