第325話 アナザー 護の笑えない理由 その9

文字数 530文字

「私立開成南高」

「開成南か。要を病院に運んでくれた子たちのいる学校だね」
「うん。あの後も皆でお見舞いにきてくれたんだよ」
「なかなか感じのいい生徒たちだったな」

 父はその時の先輩たちの印象を思い浮かべたらしく、あっさりと承諾してくれた。

 「いいだろう。学業に熱心で品行方正な生徒が多いと聞く。
 転校手続きに私もついて行こう。要はもう、普通に動けるようになったんだね」
「うん。この通り、平気だよ」
 俺は安心させるように父の眼の前で軽くストレッチしてみせた。

「それより勉強の遅れの方が気になるから復帰は早い方がいいと思うんだ」
「そうか。なら、月曜に休みを取って開成南に出向くことにしよう。それでいいね」

「ありがとう。父さん。それと」
「何だい?」
「芸能事務所と劇団の方、しばらく休みたいんだけど」
「そうか、そうだな。要の好きにしなさい」
「うん、そうする。あの」
「なんだい?要」
「いろいろ心配かけて……ごめんなさい」

 父は俺の前に来るとそっと肩を抱き寄せた。
「退院おめでとう。要、お前が無事でほんとうによかった」

 やっぱりアナザーな世界でも親は親なんだ。家族を思う心はちっとも変わらない。
 俺はちょっぴり涙ぐんだ。
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