第204話 アナザー 二人の高森 その12

文字数 737文字

くっそう……なんだよ。あのセリフ。

もう限界だった。
角田先輩の態度は。

俺はテーブルの上にバンと両手をついて立ち上がった。
身を乗り出して先輩の顏を間近にのぞきこむ。

「俺、先輩に何かしたんでしょうか。
 こっちの俺が失礼な事をしたんなら謝ります。」

長めの前髪も、黒曜石を思わせる瞳も、しなやかな体躯も、その声音すら寸分たがわないのに、魂だけはまるで別人のようだ。
氷のような鋭い眼差しを投げられてどうにも居心地が悪くなる。
耐えきれなくなってすぐ目をそらし(まぶた)を閉じて椅子に座った。

「俺、向こうの世界では開成南の生徒だし、番長でもありません」
「……こっちの君とはまるで関係ないような口ぶりだな」
「関係ありませんよ」

うつむいた。言ってはみたものの先輩の顏をまともに見る事が出来ない。
「お願いですから……今の俺をこっちの俺と同じだと思わないで下さい」

声が小さくなった。でも、この世界の俺と同一視されるのは我慢できない。

「へぇ、開成南なんだ……意外だな。
 こっちの高森は南に進むようなイメージぜんぜんないけど」

佐藤先輩が険悪ムードを正そうとでもするように声をかけてきた。

「そうですか。でも、向こうの世界に凪高校っていう学校はないんです」
「凪高ないのか」
「凪高校って一体どんな学校なんですか」
「男子校よ。私立の」
「……そうなんだ」

「こっちの世界の俺は角田先輩に何かしたんですか?」
佐藤先輩に質問をぶつけてみると先輩は首をかしげて答えた。

「さぁな?学年が違うし、いつも一緒にいるわけじゃないから」
佐藤先輩はフイっと横を向くとそれ以上答えようとはしなかった。
何か知ってる雰囲気なのに適当にかわされてしまった。
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