第318話 アナザー 護の笑えない理由 その2

文字数 707文字

 センチな気分になって、そんな事を考えていると泉の言葉で現実に引き戻された。
「高森君。実はさぁ。退院の話がでてるんだけど」

「え?退院……」
 その言葉に俺は戦慄した。

 退院って事は学校に通うって事だよな……冗談だろ。
 こちらの高森要(オレ)が通っていた学校は私立の男子校「凪高校」だぞ。

 行った事もない学校。
 あった事もない友達。
 全く知らない人間関係。
 俺は皆を知らないのに皆はオレを知っている。
 俺はそこでなじめるのか。

 学園の番長と対立したあげく番長をたたきのめしたアナザーなオレのかわりに、ソイツに刺されて入院したんだ。

 勘弁してくれ。
 学校への復帰は恐怖しかない。

 それにあれだ。
 こっちのオレは俳優業とか言ってなかったか?
 子役歴8年のキャリアがあり、CMや舞台に出た事もあるとか。
 演劇を一度もやった事もない俺がほんとにオレになり切れるのか?

 俺はにわかに不安になった。
 この度の事件は世間にどう伝わっているのだろうか。
 こっちの俺ってフォロアーが5000人はいる結構な有名人らしいじゃないか。

「泉、俺その前に向こうに帰りたいんだけど菊留先生はなんて言っていたの?」
「あっ、そうか。そうだよね。うん、先生まだ、なんとも」

 ……まだなのか。
 俺が向こうの世界に帰るのはそんなに大変な事なのか?
 魂だけなら簡単に時空を行き来できるのに体を伴うと途端にそれが出来なくなるのは何故だ。

 弱音を吐きそうだ。
 正直、病院を退院してこっちのオレになりすますなんて芸当。
 俺には絶対無理だ。だから、退院する前に一刻もはやく向こうに帰りたい。
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