第316話 アナザー 裕也の事情 その6

文字数 515文字

「ねぇ、響、あの事件からこっち、気が休まらないんだ。
 たまには息抜きがしたいな。今度の土曜、遊園地行きたい。
 僕だってそう言う所行ったって罰当たらないよね」

 夜の街を回転ずしやを目指して歩きながら裕也が言った。

「裕也」
「お願い。たまにはわがまま聞いてよ。一緒に行ってくれるよね。
 いいだろ。響」

「わかった。つれてってやる」
「ありがと。響、だから、好きだよ」
 裕也は必要以上に響の腕に絡まった。

「現金だなぁ。裕也は、わかったら二度と勝手な事しないでくれ」
「うん。わかってる。……ごめん」

 邪気の無い笑顔で微笑む裕也をみて猫みたいだ。
 と響は思う。

 つかず離れず。
 ふいっとどこかに行ったと思ったら、いつの間にか帰ってきたりする。
 さっきまで冷たい態度だったのに可愛らしく甘えてくる。

 やりずらい。

 常々、当主らしくしろと言われているこの主は未だ、反抗期まっさかりの少年だ。
 ませているとは言え、すべての行動に大人らしさを求めるのは酷というものだろう。
 だから、裕也は時々こんな事をしたがる。
 後継者とみなされてから、いままでずっと大人扱いされてきた裕也を不憫に思う響だった。
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