第39話 菊留先生の憂鬱 その5

文字数 1,908文字

KGB対米軍部の熾烈なる暗闘!
米ソの超心理学用語の対応
米国(超心理学,心霊現象研究)

                          ┌透視
                  ┌GESP───┤
       ┌ESP───────┤(複合ESP)└テレパシー
       │(感覚外知覚。   └予知      (遠感)
 Psi───┤ いわゆる超感覚)
 (超能力  │
  心霊現象)└PK
        (念動。いわゆる念力)

 ソ連(精神エネルギー学,精神生体物理学)

                          ┌バイオロケイション
                          │(生体探索)
                  ┌○──────┤バイオイントロスコピー
       ┌生体情報──────┤       │(生体内視)
       │(バイオ      └プロスコピー └生体通信
 ○─────┤ インフォメイション)(予視)    (バイオコミュニケイション)
       │                  
       └生体エネルギー現象
 噂は本当だった!!

 軍事利用を目的とした超能力の研究を、ソ連が密かに行なっているのではないか。そしてひょっとしたら、すでにもうその一部は実用化されているのではないか、といった話は、一九六〇年代からあった。そしてこういった噂が流れるたびにソ連からは、超心理学(超能力の科学的研究)はソ連では異端であり、一部のモノ好きな学者が個人的に研究をしている例はあったとしても、国家当局は何の関係もない、という答が返って来た。

 しかし、ソ連側のこういった主張がしばしば事実と異なることは、歴史が証明済である。
一九七七年六月、案の定、それを裏づけるような事件が起きた。
 アメリカの大新聞『ロスアンジェルス・タイムズ』の通信員ロバト・チャールズ・トスが、超心理学の“国家機密”を入手しようとしたという疑いで、モスクワのKGB(国家保安委員会=ソ連の秘密警察・スパイ機関)に連れ去られ、尋問を受けたのである。彼は、アメリカ政府の抗議で間もなく釈放されたが、この事件は、ソ連には……

学校の休憩時間に、超能力関連の情報を拾っていた俺は、出てきた情報をそこまで読んで、スマホから顔を上げた。

校舎と校舎をつなぐ渡り廊下の途中から外れて、中庭を突き切って俺の方へ歩いてくる担任の姿を認めたからだ。

180センチの長身、銀縁眼鏡、細身のスーツがよくにあっている。
超絶イケメンとは言い難いが、その飄々とした風貌と人当たりのよさで、男子からも女子からも人気のある先生だった。

大多数の教師から流れてくる思考は、俺に対する好奇心と期待からくる感情だったか、この先生の表層意識はそれとは全くの別物だ。

超能力、念力、ラボ、被験者、ソ連、FBI、CIA。
あれっ、今俺が読んでいるWEB情報と怖いほど重なっている。
人の表層意識を読むなんて失礼極まりないと俺は思う。
でも、俺の場合、他人の感情や意識が俺の頭の中に勝手に流れてくるのでどうしようもない。
小学校6年から覚醒した超能力は、俺自身にも御しきれていない。

この能力のせいで、人の心の裏表が分かるようになり、俺はずいぶんと人嫌いになってしまった。同級生で唯一話せる奴と言ったら同じクラスの大山智花ぐらいだ。

彼女には表裏がない。口からでた言葉がすべてだ。
誠実で態度をころころ変えたりしない彼女の性格が俺は割と気に入っている。
彼女は俺にとって一粒の清涼剤に等しい存在だった。

担任と中庭の松の木の根元に座っている俺との距離が5,6メートルになった時、彼は持っていた小さなケースからピンポン玉を取り出し俺に投げてよこした。『へたくそ』だった。

ピンポン玉は俺の手の中まで届かず、数十センチ手前で落ちた。
一つ目は取りに行った。立て続けに2つ目、3つ目を投げてくる。
その放物線はどれも俺の数十センチ手前で、落ちるようになっていた。
面倒くさくなった俺は、超能力で球体をバウンドさせ、すべてのピンポン玉が俺の手のひらに落ちてくるように仕向けた。

この能力を無防備に人前で使ったのは初めてだった。
三つのピンポン玉を受け止めて『しまった』と思った。
一部始終を見ていた担任は微笑を浮かべ手を叩いて言った。

「お見事、流石ですね。本気出さないひとし君」
「……どういう意味ですか?菊留先生」

内心怒りなど微塵もなかったが、俺は胡散臭そうに彼を眺め、わざと怒って見せた。
彼の心の内が全く読めない。
それは他人の表層意識を読むことに慣れてしまった、俺の初めての脅威だった。

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