第201話 アナザー 二人の高森 その9

文字数 880文字

「君が高森要君ですか。噂とは随分、印象が違いますね」

いつも集会に使うファミレスで待っていた菊留先生は黒ぶち眼鏡ごしに俺を眺めブラックコーヒーを口にしながらそう言った。
この世界の先生はスーツ姿ではなく、黒のポロシャツにカーキ色のズボンをはいている。
先生は俺の噂を知っているらしいが、そいつと俺の印象ががらりと変わるのは当たり前だ。

だって、それは俺じゃない。
俺はこの世界の住人じゃない。
俺は平行世界の人間なんだから。

あーっ、めっちゃ先生に説明したい。
事実を認識してほしい。

「ふーん。なるほどね。佐藤君」
「はい」
「彼の話を皆に説明してあげて下さい」
「……そうですね」
「君には、わかっているんでしょう?」
「ええ、先生」
佐藤先輩はフッと笑うと万座を見渡して深呼吸してから皆に告げた。

「皆、ここにいる高森要は凪高の高森要じゃないんだ」
「えっ?」
「ソレ、どういう意味なの?」
智花先輩が怪訝な顔で尋ねた。

「彼は、パラレルワールドから来た高森要。
なんらかの要因でこっちの世界の彼と入れ替わってしまった」
「……パラレルワールド?」

「泉、彼と出会った経緯は?」
「あっ、あのスーパーで高森君が偽札を使って警察に突き出されそうになったのを助けたの」
「違いますよ。だから……あのお札本物なんです」
「あのお札って?」
「これよ」
泉は、自分のお財布の中から二千円札を取り出してテーブルの上に置いた。

「……すごい。本物のお札みたい」
『だから、本物ですって』
「表は……守礼門。裏は……平安貴族と言ったところですか」
お札をつまみ上げ、くるりを裏に返して先生は言った。
「このお札が流通してないのは皆知ってるでしょう?」
「はい」
「ええ」
「彼は、このお札が使われている世界から来たという事ですよ」

一瞬の沈黙の後、角田先輩が言った。
「先生、そんな事が可能なんですか?」
「可能かどうかじゃなく事実として受け止めるしかないと思いますよ」
「……そうなのか? 高森要」
角田先輩は疑問符の浮かんだ顏で俺に問いかけた。
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