第353話 アナザー 邂逅 その1

文字数 726文字

 そこに映っているのはグラビア用にとられたと思しき写真。
 某有名メーカーの紳士用帽子をかぶり、白のカッターに灰色のスーツを着て、カメラ目線で撮ったオレの写真がのっていた。

 そういえばこっちのオレが書いた日記に外出時の心得が書いてあったけ。
 一・グラサン必須。
 二・キャップを目深にかぶる。
 三・有名人じゃないふりをする。

 うそだろ。あれ、マジだったのか。

 入院中、気遣ってくれたのだろう。
 父も母も姉もこんな記事が雑誌に載っている事を教えてくれなかった。
 どおりでここに来る途中、道行く人の視線が痛いと思った。

「なんだ。知らなかったのか?」
「知りませんでした。こっちのオレってそんなに有名人なんですか?」
「雑誌にのる程度には有名だな」
「……先輩は前から俺の事知ってたんですよね」
「朝ドラで有名になる前から知ってた」
「……俺、小学二年の時に、角田先輩に会ってるんです」
「……」
「一緒に蝉のお墓作って」
「……君にはその記憶があるのか?」
「はい。あります」
 一呼吸おいて言った。
「こっちのオレにもあるはずです」

 時空の分岐は一体いつから始まっていたのだろう。
 八年の芸歴キャリア。俺は現在十六歳だ。
 劇団に通い始めたのは九歳からという事になる。
 角田先輩にあったのは八歳の時。
 先輩に会った後、オレは劇団に所属したことになるのか?

「うん。あるって言ってた。でも、そんな事に固執するのは馬鹿じゃないかって」
「そうですか。先輩に向かってアイツ、そんな事言ったんだ」

 辿った人生が違えば、考え方も感じ方も違ってくるっていう事なのか?
 アイツは俺で俺はアイツなのに。
 アイツの日記を読めば読む程アイツの考えてる事がわからなくなってくる。
 俺にはアイツが理解できない。
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