第126話 泉と先生との出会い その3

文字数 1,052文字

「先輩方はなんでアレンと知り合いなんですか?」
「それがね。話せば長い物語なんだけど」
と説明しはじめた仁はめちゃくちゃ長い話をめちゃくちゃ端折って泉に伝えた。

菊留先生は前世でクスリによって作られた超能力者であり過去の因縁により、かつての研究者と一戦交え、自分の遺伝子によって作られた実験体アレンを保護するはめになった事。
現在そのアレンを養子として引き取り一緒に暮らしている事。

正確に伝わったかどうか限りなく妖しい。

「じゃ、その時にアレンと知りあったんですか」
「そっ、アレンの救出劇に俺たちは巻き込まれたってわけ」
しかも自分が(さら)われたことは微塵も話さない。
そんな仁に智花とアレンは苦笑しつつとりあえず話を肯定した。

「そう、そう、色々大変だったのよ」
何がどう大変だったのか今一つよくわからないが一応納得した加奈子。
ウエイトレスが運んできたアイスティーを口にして頷いた。

「最初の留学先は開成南だったのに、なぜアレンは今は開成東にいるんですか?
 なじむのも大変なんじゃないのかな」

「先生とその子供が一緒の学校にいるのは好ましくないとの学校側の判断により、転校を余儀なくされた。そういう事らしいよ」
と智花が答えた。

「ふーん。そうなんだ」
「大丈夫、もう慣れました」
アレンは殊勝にそう言って見せる。
「東に慣れる事ができてよかったね。私なんか未だに慣れないわ」
泉は不貞腐れた口調でのたまう。

「WHY?なぜですか?」
「何故ですって?まだ高校一年だと言うのに受験戦争一色のこのピリピリした空気!
 あーん、やっぱり開成南に行けばよかったって心から思います!」
泉は拳を握って力説し始めた。

「あの、開放感半端ない南の空気、同じ姉妹校でありながら超うらやましい」

二人は泉の言葉に苦笑いする。
あの空気は必ずしも大学進学が目的ではない生徒が少なからず在籍しているためだ。
それはある意味、大学進学組にとって苦痛ともいえる苦行になる。

進学組と就職、短大、専門学校組が混在しているとその温度差たるや段違いなりもはや、会話が成り立たない事すらある。
更に受験組は推薦やAO入試等で早々と進学先が決まってしまった者とに更なる温度差が生れる。
センター試験を一月まで意識し続ける受験組にとってモチベーションを保ち続ける事は至難の業だ。
それなら最初から大学受験のみを念頭に置いた開成東の方がより楽に受験に臨めるはずだが、そういう空気が嫌いだと泉は言うのだ。
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