第24話
文字数 1,194文字
別な日、書道教室で楷書の練習をしていた。からりと襖をあけて、入ってきた新入りは他ならぬ先輩だった。
「泉、どうしてここに」
「だって、私、ここの生徒だし」
「先輩こそなんで」
「母上に言われて」
「あら、二人とも知り合い?ちょうど良かったわ仲良くしてね。二人とも同じ2段だしね」
にこにこしながら先生が言う。
「先輩に書道の趣味があるとは知りませんでした」
「僕だって好きでやってないよ」
「名家は大変ってこと?」
「そういうこと」
また、別な日。
茶道教室で一緒になった。
「泉、なんでここに……」
「ことごとく被るなんてもはや、運命を感じるわ」
「感じなくていいよ。運命っていうより因縁じゃないかな」
教室初日にもかかわらず、皆の前でお手本の手前をやってのける。
御茶入れ、お茶杓拝見の銘を聞かれた時も淀みなく「泪」と答えた。
千利休が豊臣秀吉に自害を命じられた時、死ぬ前の最後のお茶席にて「泪」と記した茶杓を使用し、弟子の古田織部に贈ったとされている。
それを意識したのだ。
「先輩すごく上手」
「だから、親に仕込まれたんだって」
角田家恐るべし。
後継ぎとみなされていない次男でも芸事の腕前はすばらしい。
ましてや、上の兄姉なら腕前は相当に上なんだろう。
「あのさ、名家って言われてるけどそうじゃないから、うちはただの成り上がりだからね」
二言目には先輩はそう言って私を窘める。
そんな先輩の家がおかしくなって行ったのは、上のお姉さん角田夢見が交通事故で亡くなってからだった。
先輩はその事故現場にいた。姉と肩を並べて歩いていたら、道路側を歩いていた姉だけをさらってトラックが右側面の商店街に突っ込んでいった。
飲酒運転だった。
病院に運ばれた時は虫の息。
ただなすすべもなく亡くなるを待つしかなかった。
慟哭した母親に「お前が死ねば良かった」と先輩は言われたらしい。
それが一年前の話。
その頃の先輩は手が付けられないほどの根暗になり会話もできない状態だった。
そこまで聞いて高森要は両手で泉の肩を押えがっくりと頭をさげて言う。
「聞くんじゃなかった……。」
「私だって言うつもりなかったけどあんまり高森君がしつこいから」
「ごめん、泉」
「いいけど……先輩のあの傷」
「うん」
「焼け火箸だよ」
「えっ?」
「踊りがうまくできないと母親が押し付けるの」
「それって虐待じゃあ」
「だから、先生が怒るんだよね」
「……」
「先輩、ばれたくないから猛禽の爪で傷に上書きしてる」
それってかなりヤバい状態なんじゃないのか。
書道部に誘ってくれた時の先輩を思い浮かべる。
そんな家庭環境を微塵も感じさせなかった……。
あれは演技だったんだろうか。
泉は先輩の事がほっておけないと言う。
今となってはよくわかる説明だった。
「泉、どうしてここに」
「だって、私、ここの生徒だし」
「先輩こそなんで」
「母上に言われて」
「あら、二人とも知り合い?ちょうど良かったわ仲良くしてね。二人とも同じ2段だしね」
にこにこしながら先生が言う。
「先輩に書道の趣味があるとは知りませんでした」
「僕だって好きでやってないよ」
「名家は大変ってこと?」
「そういうこと」
また、別な日。
茶道教室で一緒になった。
「泉、なんでここに……」
「ことごとく被るなんてもはや、運命を感じるわ」
「感じなくていいよ。運命っていうより因縁じゃないかな」
教室初日にもかかわらず、皆の前でお手本の手前をやってのける。
御茶入れ、お茶杓拝見の銘を聞かれた時も淀みなく「泪」と答えた。
千利休が豊臣秀吉に自害を命じられた時、死ぬ前の最後のお茶席にて「泪」と記した茶杓を使用し、弟子の古田織部に贈ったとされている。
それを意識したのだ。
「先輩すごく上手」
「だから、親に仕込まれたんだって」
角田家恐るべし。
後継ぎとみなされていない次男でも芸事の腕前はすばらしい。
ましてや、上の兄姉なら腕前は相当に上なんだろう。
「あのさ、名家って言われてるけどそうじゃないから、うちはただの成り上がりだからね」
二言目には先輩はそう言って私を窘める。
そんな先輩の家がおかしくなって行ったのは、上のお姉さん角田夢見が交通事故で亡くなってからだった。
先輩はその事故現場にいた。姉と肩を並べて歩いていたら、道路側を歩いていた姉だけをさらってトラックが右側面の商店街に突っ込んでいった。
飲酒運転だった。
病院に運ばれた時は虫の息。
ただなすすべもなく亡くなるを待つしかなかった。
慟哭した母親に「お前が死ねば良かった」と先輩は言われたらしい。
それが一年前の話。
その頃の先輩は手が付けられないほどの根暗になり会話もできない状態だった。
そこまで聞いて高森要は両手で泉の肩を押えがっくりと頭をさげて言う。
「聞くんじゃなかった……。」
「私だって言うつもりなかったけどあんまり高森君がしつこいから」
「ごめん、泉」
「いいけど……先輩のあの傷」
「うん」
「焼け火箸だよ」
「えっ?」
「踊りがうまくできないと母親が押し付けるの」
「それって虐待じゃあ」
「だから、先生が怒るんだよね」
「……」
「先輩、ばれたくないから猛禽の爪で傷に上書きしてる」
それってかなりヤバい状態なんじゃないのか。
書道部に誘ってくれた時の先輩を思い浮かべる。
そんな家庭環境を微塵も感じさせなかった……。
あれは演技だったんだろうか。
泉は先輩の事がほっておけないと言う。
今となってはよくわかる説明だった。