第138話 泉と先生との出会い その15

文字数 1,019文字

「アレンはどんな超能力を持ってるの?」
泉は二杯目のアイスティーを口に運びながら訪ねた。

「そうですね。僕だけ能力を明かさないのは卑怯ですよね」
アレンはそう言うとデザートスプーンをカップに沿わせて置きテーブルの上にあった小さな花瓶を手に取った。

中の花を数本抜いてちぎり始める。
「やめて、かわいそうだよ」
泉は慌てて止めたが、(アレン)は困ったように笑んで唇に一本指を立てた。

次にバラバラになった花の上に手をかざす。
軸に花弁が一枚一枚くっつき、おしめめしべが元の位置に収まった。
泉は驚きのあまり目を丸くしてそれを凝視した。
「はい、どうぞ」
アレンは指先で花の軸をつまみ上げると泉に渡した。

「それが、アレンの能力……」
「そうです。加奈子さん」
「すごい」
「ありがとう。この力、最初は凄いとは思えなかったです」
「どうして?」
「……それは」
「加奈ちゃん。それ以上は聞かないで」

智花が話を遮った。
「……わかりました」
智花先輩が止めたのなら、聞いてはいけない事なんだろう。
アレンの過去は決して明るいものではない。
仁と智花がアレンと関わるようになった経緯を考えればそれは明白だった。

「僕はクラブの集会には出ないけど義父さんの事、少しでも知りたくて」
「一緒に住んでるのにおかしな事言うんですね」
「時々、せんせいが何を考えてるのか解らなくなるんです」

アレンは他人行儀にあえて『せんせい』という言葉を使った。
「今日は加奈子さんに逢えてよかった。義父はやっぱり私の思っていた通りの人でした」
「そう、良かった」
「盛り上がってるとこ悪いんだけど、俺達そろそろ塾行ってもいいかな」
横から仁が口を挟んだ。

「先輩、まだいたんですか」
「いたんですけど、目の前に」
「冗談はそのくらいにして、そろそろ解散しましょう?」
智花が苦笑いしながら言う。
「そうですね」
アレンも(うなず)いた。
「じゃあ、、加奈子さん今日はほんとにありがとう」
「ううん。こんな話ならいつでも歓迎だよ。
 私でよければ先生のエピソード。アレンにたくさん話してあげるよ」
茶目っ気たっぷりに泉は言う。

泉は先生と知り合ってから色々助けてもらっていた。
そのエピソードはクラブのメンバーもほとんど知らない。

その話を少しづつアレンに伝えていけたらと思った。
それはアレンにとってとても大切な事なのだと泉は理解した。
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