第234話 アナザー 二人の高森 その42

文字数 683文字

「佐藤先輩、強いのはよーくわかったんで一つここは紳士協定といきましょうや」
 飛びのいて距離を取ったオレは佐藤先輩にそう持ちかけた。

「しんしきょうてい?」
 ファイティングポーズを解いた佐藤仁は興味深げに聞き返してきた。
「つまり暗黙の了解って奴」
「どういう事だ?」

「向こうの世界じゃオレは曲がりなりにも俳優なわけで」
「うん、それで?」
「こっちの世界にいる間、こっちの高森要になり切るんでそう扱って欲しいって事ですよ」
「ほう、無理じゃねーの?どう考えても似てねーし」
 佐藤仁は伊達メガネのブリッジを中指で押し上げて聞き返した。

「そこを演じるのが俳優ってもんでしょ」
「まぁ、高森になれるんだったら、そっちの方が俺ら心地いいけどな。
 一言で言ってお前とは正反対のキャラだ。ほんとになり切れるのか?」
「愚問ですよ。先輩」
 オレは微笑した。

 だって、彼はオレなんだから、性格さえ把握すればなりきれるはずだ。
 正反対ッて事はつまりこういう言い方か?
 生意気なキャラクターをひっこめたオレは声のトーンを明るめに変えて、爽やかな笑顔で……。

 深呼吸してから佐藤仁に話しかけた。

「佐藤先輩」
 彼は「おやっ?」という顔をしてオレをみた。

「こちらの世界の高森について詳しく教えて欲しいんですけど」
 オレは控え目に遠慮がちにそう言うと人好きのする笑みを浮かべた。
 すべて計算づくだ。

「ご教授、ぜひお願いします」
 頭を下げ、真面目な眼差しで言ってのける。
 彼は素直に驚いてオレをみた。
 そして、信じられないという風に呟いた。
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