第45話 菊留先生の憂鬱 その11

文字数 903文字

スーパーの駐車場で一学年下の中坊軍団とすれ違った。
彼らも塾で勉強を終えてきたらしく、駐車場の一角を陣取ってスーパーから買ってきた駄菓子類を頬張りながら好き勝手な事をわめいている。

「受験きつい」とか「遊びテー」とか「親にスマホ取られた」とか「金ない」とか学生に在りがちなキーワードをしゃべっていたが話が「憂さ晴らしがしたい」とか「ゲーセン」とか「おやじ狩り」など不穏な内容になっていったのを聞いて俺はまゆをひそめて彼らのいる方を凝視した。

「やめとけよ、佐藤、正義感はわかるがあいつらに関わったって碌な事にならん」

周りの塾生も同じような反応を示す。

「ああ、そうだね」

気弱そうな笑顔で言葉を返したが内心、意見してきた時枝には腹がたった。
おやじ狩りなんて、誰が犠牲になっても気分のいい話じゃない。
この場に四人もいるのだから、先輩の立場で意見して止めさせたって罰は当たらないと思うのだ。

でも、彼らは、自分が可愛いし面倒ごとに関わりたくない。
そう思っているのは見え見えだった。
スーパーの入り口まで来て買い物を終えた担任と行き会った。

「先生」
「やぁ、佐藤君。買い物ですか?」
「菊留先生、僕、今、塾の帰りなんです」
「……僕?……。」

眼鏡の奥の瞳は不思議そうに瞬いたが俺の周りいる塾生を見て先生は心情を理解したらしい。
深くは追及してこなかった。

「そういえば、君の家はここの駅の近くでしたね。あまり、寄り道せずに帰るんですよ」

では、と言って先生は軽く会釈して俺から離れて行った。

「あっ、僕も、先帰るから、みんなごめん」

塾生に別れを告げ、レジ前エンドにおいてあったペットボトルのお茶を一つ取って清算をすませ菊留先生の後を追った。菊留先生も気になったが、あの中坊軍団が何より心にひっかかる。
最後にお茶を買って時間を食ってしまったことが災いしたのか、担任と中坊軍団の姿が見えない。

薄暗い街灯。今にも振り出しそうな雨雲。
雨が降ってきたら先生を探すのも難しくなる。
俺は焦って犯罪に向いてそうなスーパー周辺の路地裏と公園を探し回った。
彼らは案の定そこにいた。
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