第356話 アナザー 邂逅 その4

文字数 835文字

「あはははっ、おっかしい!
 響って綱渡りとか、崖登りは平気なのにジェットコースター苦手なんだ~」

 葛城裕也は目じりの涙を拭いながら言った。
「あーっ、気持ち悪い。皆よくこんなものに乗れるな」

 胸のむかむかが止まらない。
 桜井響はジャケットのポケットからハンカチを取り出して口元に当てた。
 二人ともたった今、丸締ランド一番人気のジェットコースターから降りてきた所だ。

「えーっ、気持ちいいじゃん」
「どこがだ」
「ね、響、次はコーヒーカップに行こうよ」

 冗談じゃない。さっきのコースターで
 三半規管にダメージを喰らってるのに、この上コーヒーカップだと。
 更なる酔いを助長させるだけじゃないか。

「もっ無理。今にも吐きそうだ」
「響って本部じゃ強面、硬派で通ってるのにギャップありすぎ。面白すぎるよ!」

 胸のむかむかは酔っただけじゃない。
 +αが加わっていることは明白だった。
 彼はひたすら笑い転げる裕也を睨み、こみあげてくる吐き気を抑えながら言った。

「裕也、笑いすぎだ!君は目上に対する敬意が足りない」
「だってぇ!響ってば乗ってる間中ずーうっと『おかあさーん。ごめんなさーい』って叫んでるし」
「うっ、うるさい!誰だって言うだろ」

 揶揄されて真っ赤になった響はいっそう不機嫌になった。

「えーっ、言わないよ。皆『きゃー』とか『わーっ』とか言うけどさ」
「なんで皆あんなに平気なんだ」
「普通平気でしょ」
「俺はもともと乗り物は苦手なんだ」

「へぇ、そうなんだ。でもバイクや自動車は普通に運転するよね」
「それはなぜか平気だ、でも人に乗せてもらうと吐きそうになる」
「響の意外な弱点発見!乗り物に弱い」
「こらっ、メモるな!」

 上着のポケットからこれ見よがしに手帳を取り出してメモる裕也に響はむくれて見せた。
 高1にしては背の低い裕也は175㎝の響と一緒にいると小柄さが強調されて中学生くらいにみえる。
 二人ともおそろいのデニムジャケットにジーンズを身につけている。
 はたから見れば仲の良い兄弟に見えた。
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