第314話 アナザー 裕也の事情 その4

文字数 565文字

「うううっ、裕也。君って奴は」
 裕也は冷めた目で彼を見るとそばから飛びのき部屋の奥へ後ずさった。
 目にも止まらぬ速さで右手二本指で空中に五芒星を描き出し呪を唱えた。

(へき)!」
 二人の間に透明な壁が出現した。
 裕也に掴みかかった響はうっかり壁に触れた。
 びりびりと体に電流が走る。
「痛っつ!」
 慌てて手をひっこめた響に裕也は言った。
「残念でした。僕を誰だと思ってるの?葛城裕也だよ」
 彼は悔しそうな顔をして裕也を見ている響に重ねて言った。

「僕にかなうわけないじゃん。響に技を教えたのは僕なんだから」
 裕也の言う通りだった。
 12歳ですべての技を網羅した裕也は13歳から門弟に技を教える側に回っていた。
 響は教えを乞う立場の人間だ。
「響、そんなに怒らないでよ。ねっ、見て一ノ谷先生のやり方」

 裕也は口元に指二本を立て呪を唱え上に跳ね上げた。
「界を隔てよ。結!」
 目の前に人間サイズの透明な結界がシュンと音をたてて出現した。
 響は眼を見開いて、それをじっと見つめた。
 湖北一宮が教える「結界」の張り方とは明らかに違う。
 一門の結界の貼り方は「呪」を唱え、指で「五芒星」を描き、両手を組み併せて「印」を結ぶ。

 たった今、裕也はそれをすっ飛ばして「呪」だけで結界を出現させたのだ。
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