第225話 アナザー 二人の高森 その33

文字数 617文字

 これは、そのアレかぁ?
 別世界のオレ。アナザーな世界のオレか?
 右手を動かそうと努力してみる。まったく動かない。左手も同様だ。
 体は俺の意思どおりに動かない。意思に反した行動をとっている。

 現状を把握するのに、しばらく時間が必要だった。
 どうやら、俺はアナザーなオレに憑依している状態らしい。

 その時、ザーッと水の流れる音がして近くにあったトイレのドアがゆっくりと開いた。
 中から出てきた姉は洗面台の鏡に映るオレの姿を背後から覗き込んで驚いていた。

「要?かなめよね。どうしちゃったの?その頭」
「うっさいなーっ。染めたんだよ。てめぇには関係ねーだろ」

 オレは姉を鏡ごしに三白眼で睨みつけた。
 なんだ。この受け答え。普段の俺ならこんな返答絶対しない。
 なのにオレは俺の意思に反して思わぬ返事を姉に返している。
 ねーちゃん、それは違う、俺じゃないから。

「染めたんだ。ねっ、もしかして反抗期?」
「そんなんじゃねーよ」
「ううん、なんか返答がワイルド。良かった。
 あんた、反抗期らしきものぜんぜんなかったからねー。
 反抗期は大事よー。今なかったら大人になってから暴れたりするからね」

 両拳を握ってガッツポーズをする姉。
「要もちゃんと反抗期が来てんだ。これは喜ばしい事だわ。今日は目出度いじゃん。夕食はお赤飯ねー。」

 反抗期でお赤飯ってどういう感覚なんだ。
 つくづく姉の感性はわからない。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み