第287話 そのころの蘭さん
文字数 1,903文字
ふたたび、視点チェンジだ。
次は蘭さん。
蘭さんの視点では前回のヤドリギ編でも何回か書いたよね。
というわけで、蘭さん視点GO!
*
ロランは疲労していた。
洞くつの岩肌を照らすカンテラがチラチラと点滅する。空気がゆれたようだ。風が通ったのだろうか?
「……また、負けた」
「ロラン! どげすうで? わやつ、このまま永遠に外に出られんで?」
「いえ。まだまだです! 一回でもヤツに勝てれば……」
「あーあ。おれ、こういうの苦手なんだよな。だってほら、人間アレルギーだからさ。大勢で集まることないからさ」
アンドーやラフランスも疲れきった顔つきだ。ロランはなんとか彼らを励ました。
こんなことをしている場合でないのはわかっている。わかっているが……強い。とんでもない強敵なのだ。
敵はクククと口辺をつりあげて笑う。我に勝つことなどできると思っているのか?——という顔だ。
たしかに、強い。
このままでは、誰も勝てないまま、ここでパーティー全員が餓死……。
「まぁ……」
心配そうなクマりんの手を、ロランは片手でにぎった。もう片方の手は
戦闘の道具
でふさがっているからだ。「……もう一戦だ! 次こそは負けない!」
ロランは気合をこめて宣言すると、トランプをきった。場についたロラン、アンドー、ラフランス、そして洞くつのぬしにくばる。
「さあ、ポーカーだ! ぬし」
洞くつのぬし。
そう。ノームたちの鉱脈の奥で宝を守る番人である。それは天井いっぱいに達するほどの巨鳥だ。いや、グリフォンと言ったほうがいい。頭、翼、足は黄金のワシだが、体はライオン。途方もなく大きい。
この洞くつのぬしと
戦って
、すでに何時間経過しているだろう。ポーカー、大富豪、ブラックジャック、なんなら七ならべや神経衰弱で争ってきた。
しかし、いっこうに勝てないのだ。おかしい。今までロランは勝負事で負けたことはないのだが……。
(僕の今回の手札は……スゴイ! いきなりツーペアだ)
2と10のツーペア。
ツーペアはポーカーのなかでもっとも低い役だが、一回カードを交換しただけで、役ができあがることじたいが、現実的にはとても珍しい。たいていはブタだ。オークのことではない。なんの役もできていない無価値の手札のことをブタと言う。
それぞれが自分の手札を確認し、カードを交換するかしないか選択する。ちなみに賭け金はゼロだ。ただ、ロランたちが勝つまでゲームをぬけられないというだけ。
いったい、なぜこんなことになってしまったんだろう……と、ロランは回想する。
ぬしに遭遇したとき、何も言わずに逃げだせばよかったのだろうか?
でも、巨体なのにとても俊敏で、逃げ道をふさがれてしまった。
「ど、どげすうで? ロラン。これ、ぬしだない?」
「ぬしですよね。倒したら、もうこの鉱脈で宝石がとれなくなってしまうんですよね。それはいくらなんでも、ノームたちに迷惑をかけてしまう」
「戦いながらちょっとずつ逃げて、鉱脈から出てしまえば?」と、ラフランス。
「えっ? そんなことできるの?」
「さあ。わかんないけど」
ゴチャゴチャ話してると、ぬしはくちばしに何かをくわえて、あばれだした。ロランたちの前に、その何かをドンとなげだす。よく見ると、それは丸いテーブルだった。
「クエーッ! クエッ、クエッ、クエクー!」
「なんか、怒ってます?」
「ロラン。ぬしは勝負で我に勝てば解放してやろう、と言っています」と、バランが説明してくれた。
「勝負?」
「はい。勝負です」
そして、ぬしはくわえたカードをテーブルに置いた。
あれから数時間。昼食も食べてないのでお腹がすいた。
それに早く古城へ行って、フェニックスを助けないといけないのに。作戦はいったい、どうなっただろうか?
「僕は一枚交換です」
カードを交換すると、10のダイヤだ。フルハウス! これなら勝てるに違いない。
「勝負です! ぬし。今度こそ、僕の勝ちだ!」
「ククク。クエー」
だが、カードを同時に見せあうと——
「ま……負けた! 8のフォーカード」
さすがは宝の番人。
ものすごい強運の持ちぬしだ。
もしや、一生、この洞くつから出ることができないのか……?
ロランが絶望しかけたそのときだ。どこからか声が降ってきた。
「おまえたち、この一大事に何やってるんだ?」
この声は……。
ふりかえると、
彼
が立っていた。ロランの苦手なワレス近衛隊長だ。あきれた顔つきの彼に事情を説明すると、
「ポーカーで勝てばいいんだな? おれが相手になる」
「そんなこと、いくらあなただって——」
「だまって見ていろ」
五分後。
ようやく、ロランたちは長い苦行から解放された。