第192話 大会終わって、日が暮れて
文字数 1,369文字
長かった一日が終わった。
今日だけで、いろんなことがあったなぁ。
けっきょく、ゴドバの腕は奪われた。ゴドバ自身も逃がしてしまった。
これでよかったんだろうか? ワレスさんは謎の微笑を見せて、作戦は成功だって言ったけどさ。
それより、ゴドバが去っていったんで、僕らは心置きなく、蘭さんと再会を喜んだ。
「わあっ、かーくんたち。すごく強くなったんですね。僕らも特訓したんだけど、かなわないなぁ」
「えへへ。毎日、白虎の竹林に通ったからねぇ」
「へえ。僕らは朱雀の山林に通いました」
「そっか。最初に朱雀門から入ったんだね」
と、この会話はボイクド城のなかの僕らの宿舎でしている。
武闘大会が終わったら、転移魔法でボイクドに帰ってこれるようになった。
でも、まだヒノクニにも行ってみるつもりなんだけどね。シャケも探さないといけないし、ちょっと気になることが残ってる。
「それにしても、ゴドバの腕を持ち逃げされたのに、作戦成功って、どういうことなんだろう?」
すると、戸口から声がする。
「あれは、わざと持って行かせたんだ」
ワレスさんだ。
アンドーくん特製鍋をかこむ僕らのかたわらへやってきて、あたりまえの顔をして手をさしだす。
僕はせっせと、白菜や肉を器によそってあげた。
アジなんか、まだ痺れてるもんね。
「はぁ……カッけぇ」
「わざとって、どういうことですか?」
「あの腕には、ホムラが開発したマイクロチップが埋めこまれている」
むうっ。ホムラ先生のSFが、どんどんファンタジーを侵食してくる!
「つまり、逃げられても、ヤツの居所がわかるように?」
「というより、はなから逃がして、その居城を調べるために」
「なるほど」
「あえて持っていかせるためには、まず腕のありかを不自然でなく世間に知らしめる必要があった。その上で、つねに大勢の兵士が監視できる設備と、奪われてもおかしくない状況を作らなければならなかった。その舞台として、武闘大会は最適だったんだ。あの特別試合のあとなら、おれや勇者パーティーが疲れはてて、手も足も出なかったとしても不思議はないだろう?」
僕はうなったよ。
そこまで考えてのことだったなんてね。
「居城がわかったら、どうするんですか?」
「もちろん、攻めこむ。ホムラが今、その場所を解析している」と言ったあと、ワレスさんは考えこんだ。
「
あの場所
をつきとめられるんじゃないかと期待しているんだ」「それって、つまり……」
「そう。おまえが以前、ゴドバのキャラバンにつれさられた謎の城だ。人を魔物に変える製造工場。その場所をぶっつぶす」
僕は大きくうなずいた。
そうだ。大会場に残されたガーゴイルたちも、ほんとは人間だった。ボイクドやヒノクニや、その他の国で行方不明になった人たちだ。
こうしてるあいだにも、新たにさらわれている人たちが、きっといる。いつまでも続けさせちゃいけない。早く工場を壊滅させて、こんなことは終わりにしなければ。
「わかりました。もしも、そこへ行くときには、僕も同行させてもらえますか?」
すると、蘭さんが僕の肩をたたく。
「かーくん。
僕
じゃありません。僕ら
です」「ありがとう。ロラン」
早く、あの謎の島へ行って、ナッツのお母さんを助けたい。せっかく、小説を書くのランクがあがったんだから。
待ってて、ナッツ。もうすぐ、そこへ行く。