第183話 ワレスさんと特別試合〜

文字数 1,686文字



 前にも一回、ワレスさんと手あわせしたことあるなぁ。
 あのときは僕ら弱くて、ぜんぜん勝負にならなかった。傭兵呼びで惜しいとこまでは行ったんだけどさ。

 会場はまだ観客でにぎわってる。いや、むしろ、さっきより多い。みんな、この特別試合を心待ちにしてたんだなぁ。

「さあ、観客席のみなさん。いよいよ、待ちに待った特別試合! 本年のみの異例のエキシビションです。存分にお楽しみください」

 楽しみますとも。
 けど、ゴドバが腕をとりもどしに来るとしたら、今しかない。特別試合が終われば、腕は僕ら、またはワレスさんが個人の所有物として持ち去ってしまう。

 ゴドバにしてみれば、持ち去ったあと、ひとけのない場所で所有者を殺して奪うほうが容易なのかもしれないけど……。

 でも、まがりなりにも、僕らだって武闘大会で優勝したんだ。かんたんに殺されたりはしないぞ。

 とにかく、今は試合だ。

 僕ら三組みとも会場へ入って整列するんだけど、なんでかなぁ?
 そもそもさ。ワレスさん一人で、五人パーティーと対戦するのかな? 三組み順番に?

 ウワサをすれば、ワレスさんがバックゲートからやってきた。やっぱり一人だ。お供つれて出てくるわけじゃないのか。ワレスさんとクルウなら、二人だけでも、そうとうの強さだけど。

「会場のみなさん、ボイクド国のワレス近衛騎士長の入場です。大きな拍手でお迎えください」

 口笛や指笛や拍手や歓声が、ひときわ鳴り響く。ゴライも連勝二年でストップしたし、三年連続で優勝するって、やっぱりスゴイことだ。

 でも、前に見たとき、ワレスさんの数値、今の大会出場者ほど、きわだって強くはなかったような……。

 ところが、アナウンサーからマイクを奪ったワレスさんは、とんでもないことを言いだした。

「三度も対戦するのは時間のムダだ。三組同時に相手をしてやる。かかってこい」

 ええーッ! いくらなんでも、それ、言いすぎでは?
 い、いいの?
 蘭さんの攻撃力五万だけど?
 猛だって、ミニコだって、めちゃくちゃ強いよ? ゴライは100%反射カウンターだし……。

 僕の英雄がみんなの前で恥をかくのはイヤだなぁ。
 なんて、ワレスさんの心配しつつ、僕は試合にのぞむ。

「なんと! これが殿堂入り者の余裕でしょうか。ここにいる十五人全員と、たった一人で戦うと言いだしました。ワレス近衛騎士長。ほんとに大丈夫なんでしょうか? さあ、挑戦者たちよ。その強さを我々に見せてください!」

 ワレスさん、余裕の表情だ。

「さ、かーくん。やろうぜ」と、猛が言うんで、僕らは陣形をとる。いつものように、たまりんを後衛にした形。

 ほかの二チームもそれぞれの位置から、ワレスさんをかこむ。会場のどまんなかにいるワレスさんを十五人で包囲するかっこうだ。ワレスさんには逃げ場がない。
 うーん。どう見ても、僕らが圧倒的に有利なんだけどな。

「じゃあ、とりあえず、聞き耳からやろうか。ぽよちゃん、お願い」

 蘭さんたちもそれぞれに動きだしてる。

「先制攻撃!」
 蘭さんの声が僕らのとこまで届く。

 僕はなにげなく、そっちを見た。蘭さんの五万プラス五万。合計十万攻撃。いくらワレスさんでも、この一撃で勝敗が決するでしょ?

 ところがだ。パシンとムチの音が響いたあと、ワレスさんは平気な顔で立ってる。

「なんかのバリアかな?」
「いや。ふつうにムチ、あたってたぞ」
「だよね」

 蘭さんの攻撃はあたってた。盾でふせぐそぶりさえ見えなかった。
 変だな。十万攻撃をまともに受けたのか?

「キュイ〜」

 おっと、ぽよちゃんの聞き耳だ。どれどれ。

「えーと、ワレスさん。レベルは62。職業——剣聖! 剣聖だ!」

 剣聖。どっかで、いつだったか聞いたなぁ。なんだっけ? 剣が関係してたような。

 ああッ、アレだ!
 銀行から預金プレゼントでもらった世界に一つしかないっていう、創生の剣。たしか、職業が剣聖じゃないと装備できないんだ。

「剣聖。最上位職だな」と、猛が言う。

「そうなの?」
「前に魔王が封じられたときに、勇者のパーティーにいたのが剣聖だって聞いたことがある」

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