第129話 次鋒、アジ

文字数 1,417文字


「猛、勝ったよ! だけど、気持ち悪いくらい楽勝だった」

 猛は考えこんでる。
「昨日と先鋒が違ってたよな」
「うん」
「もしかしたら、昨日の先鋒の男ではおまえに勝てないから、戦略として交代したのかも。つまり、パーティーのなかでは強い男を確実に勝たせるために、かーくんには弱い女の子をあてがったんだ。言ってみればイケニエだな」

 うーん。試合だから戦略も大事なのはわかるけど、なんか昨日と言い、あのチーム、卑怯な戦いかたするんだよなぁ。ボイクド城の正規兵だって言うけど、なんかイヤな感じだ。

「アジ。大丈夫? ムリはしなくていいよ? 次鋒戦だけ棄権(きけん)してもいいんだし」
「いいよ。おれ、やる。おれも強くなって弟妹を養わないと」

 なんか不安だなぁ。
 でも、本人が言うんで、しかたなく対戦に送りだす。
 向こうの相手は昨日の茶髪戦士だ。不安が高まる。

「両チーム、次鋒、位置について。始めッ!」

 試合が始まった。
 僕はあらためて、アジのステータス画面を見た。試合中だからだろう。初めて、ハッキリと詳細を見ることができた。

「あッ! 猛」
「ああ……」

 なんと、アジの職業の欄、迷子の村人って書いてある。つまり、無職だ。

「……アジ、無職なんだ」
「ただのNPCの場合、職業につけない可能性もある」
「ああ……」

 マーダー神殿でアジだけ転職しないことに、もっと疑問を持っとくんだった。

 レベルは30。僕らと鍛えたから、レベルだけはまあまあ。でも、数値が全体に低い。村人だからレベルアップ時に伸びる基本数値が低いんだ。さらには装備品が……ふつうの服。つまり、これって初期装備だ。

「兄ちゃん……」
「大怪我しなきゃいいな……」
「うん……」

 あれ? でも、特技があるぞ。

 お医者さん
 本を読む
 理系

 そうなんだ。アジって、じつは理系なんだ。なんとなく、学者向きの特技っぽいな。

 だけど、もちろん、試合はアジの負けだった。特技を使うまもなく、一方的に攻められて倒れた。

「アジ。大丈夫?」
「……ごめん。やっぱ、勝てなかったよ」
「僕らのほうが悪かったよ。装備品くらいはちゃんとしたの持たせてあげればよかった」
「おれ……強くなりたいのに……やっぱり、ダメなのかな? おれじゃ、シャケ兄ちゃんみたいにはなれないのかな?」

 これは僕の心につきささった。現実では、僕はひよわな一般ピープル。猛はリアル武闘家だ。猛みたいになれないことが、コンプレックスじゃなかったと言えばウソになる。

「ごめん。アジ。今度はちゃんと職業について、特訓しよう。アジは特技が使える。てことは職業にもつけるはずだよ」
「……うん。おれ、がんばる」

 アジは救護係のお姉さんに回復魔法をかけられて、すぐに元気になった。

 これで一勝一敗だ。
 次も負けたら、あとがないぞ。

「中堅戦です! 両チーム、ならんでください」

 次は、ぽよちゃんだ。
 勝てるかな?

 相手はよりによって、重いよろいを着た重騎士っぽいやつだ。固そうだなぁ。

 ぽよちゃんは妖精のネイルっていう銀行のプレゼントの、かなり性能のいい武器をつけてる。だから攻撃力もけっこう高い。だけど、ミニコほどずば抜けてるわけじゃない。小型モンスターにしてはそうとうに強いほうだけど、それでも武器と力をあわせて300ほどだ。あの固そうなおじさんのHPをけずるのは大変だろうな。

「ぽよちゃん。がんばって」
「キュイー!」

 戦場にわが子を送りだす気分。

「中堅戦、始めッ!」

 対戦が始まった。
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