第256話 ノーム村の変化

文字数 1,522文字



 う、嬉しい?
 いや、ダメだぞ。かーくん。落ちつけ。
 たしかに、この女の子は可愛い。赤毛に近いような茶髪に、青い目。そばかすがあるのも西洋人って感じでいいね。

 でもね。でも、どう見ても女の子は十五、六だ。いや、十三、四かな? ちょうどアジと同年代くらい。
 日本人から見たら卒業前の高校生に見えるけど、外国人は大人っぽく見えるから、ほんとは中学生だ。

 僕、二十〇歳。
 中学生に抱きつかれてニヤニヤするのは犯罪!

「ゆらり! ゆらり!」

 ほら、たまりんも怒るしさ。

「えっとぉ、誰かわからないけど、ごめんよ。僕、犯罪者になりたくないから離れてくれないかな?」
「何言ってんだよ? かーくん。おれだよ、おれ!」

 おれ? そうか。ボクっ子ならぬ、オレっ子か。最近、そういうのもアリだよね。
 女の子は男性化。男は女性化していく。そのうち、男女のらしさは逆転するのかもしれない。

「えっと、おれだよって言われても、ノーム村の人だよね? ごめんね。ノームの人たちのことは、よくおぼえてなくて。あれ? でも、さぼさぼ言ってない?」

 ノームの女の人はみんな語尾に必ず『さぼ』をつけてた。男は、だば。

「だから、おれだよ! おれ! ナッツ!」
「…………」
「…………」

 僕はたまりんと目を見かわした。たまりんの目、どこにあるかわからないけど、なんとなく気持ちは伝わった。

「これは、アレだよね。『ぼくナッツだよ』詐欺」
「ゆらり!」
「ナッツのふりして、かーくんから大金をせしめようとしちょうだない?」と、アンドーくんまで。

「だから! おれは本物だよ。ナッツ!」
「えっ? でも、ナッツは男の子だよ?」
「女なんだよ! かーくんたちが勝手に男だと思ってただけだろ?」
「えっ? そうなの?」
「そうなの。ほら、おれって一人でさまよってたろ。女の子だと危険なめにあうからさ。男のカッコしてたんだ」
「そうなんだ?」

 僕の手をアンドーくんがゆさぶる。
「かーくん! だまされたらいけんよ。ナッツにしてはガイなよ。ナッツはまだ八つだが?」

 ハッ! そうだった。年齢があわない。あやうく詐欺にひっかかるところだった。

 と、よこから誰かが、ぬっと顔を出した。

「コビット王の剣の魔法効果でござろう。剣の魔法で小さくされた生き物は、その期間が長くなればなるほど、本来より早く年をかさねていくという言い伝えであるな」

 び、ビックリした。クピピコだ。同じサイズのときだと、ちゃんと言葉が通じるんだよな。

「ん? ちょっと待って。いろいろ疑問があるんだけど、その前に、今、ふっと思ったんだよ。もしかして、こうやって小さくなってるときって、僕ら、コビットになってるの?」
「さようでござる」
「もしかして、今なら転職して精霊になれる?」
「む? 試したことはござらんが、なれるやもしれぬな」

 ちょっと、やってみたい。
 精霊族って、けっこうスゴイ特技をたくさんおぼえるんだよな。チェンジリングとか、戦闘中、敵をあやつって、気絶するまで自分をなぐり続けさせる技とか。えっと、フェアリーリングとか言ったっけ。本来は死ぬまで踊らせる妖精の特技。逃げるの成功率もアップする。

「ああっ、あとでスズランにお祈りしてもらおう。ところで、その話は置いといて。君がナッツ? ほんとに?」
「ナッツだよ」
「ナッツ! 大きくなったねぇ! てか、女の子だったんだ! おどろきぃー」

 まさか、これがあのペッタンコ胸のそばかすだらけの男の子か。
 あんまり驚きすぎて、現状を受け入れるのに時間を要してしまったよ。

「そっか。ナッツかぁ。それにしても、なんか村が静かだね。村長さんたちは?」
「それが……」

 ナッツの顔がくもる。いったい、どうしたっていうんだろう?
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