第30話 鉄クズ戦2
文字数 1,824文字
せっかく蘭さんが全滅させたのに、一瞬でもとに戻った。
モンスターって際限なく出てくるんだ?
とは言え、まだこっちのターンだ。
「薔薇ー!」
バランの薔薇発動。
薔薇の花びらが吹雪のように舞い、僕らを包みこむ。
うーん。いい香り。力がみなぎってくる。
薔薇はバラン特有の得意技だ。バランのすべての数値が100ずつあがる上、パーティー全体に『みんな、もっとがんばろ〜』の効果がかかる。攻撃力が20%ていど上昇する。
さらには薔薇の花びらが敵を幻惑させ、目くらましをかけることがある。
よしよし。鉄クズの半数は目をチカチカさせてるぞ。
薔薇は自動発動だから、そのあと、バランは自分の行動もできる。蘭さんの前に黒ぽよのくぽちゃんを走らせて、盾をかまえた。
次はシルバンの順番なんだけど、僕らは後衛のメンバーも戦えるからね。
ぽよちゃんはギュッと目をとじて、ためるの動作をした。ためるはMPいらずでテンションをあげれる技だ。攻撃のダメージが劇的に高まる。
たまりんがポロンと詩神のハープをひくと、装備魔法の月光のセレナーデが僕らにかかる。これは敵の攻撃魔法から味方を守ってくれるバリアだ。
「ケロ〜」
ケロちゃんの水の結界は、敵からの火属性魔法をやわらげ、味方の水属性魔法の与ダメを増加させる。回復魔法も水属性だ。回復効果がアップするのは嬉しいんだけど、残念ながら、僕らは誰も水属性の攻撃魔法を知らないんだよね。
アンドーくんはこのターンでは行動しなかった。
シルバンが走っていって、バランのとなりに立つ。これで蘭さんがダメージを受けることは、まずない……だろう。
さあ、じゃあ、いよいよ僕の番ね。
ここまでのあいだ、僕は風神のブーツで地道に素早さをあげておいた。これなら十回は行動できるな。ブーツはまだまだスピードアップしてくれそうだけど、傭兵呼びなら一発だ。
「よ〜し。ひさびさに行ってみようかなぁ。傭兵呼び〜」
晴れ晴れした気持ちで、僕は叫んだ。
ミャーコの口から黄金の雨がふきだし、進軍ラッパの音とともに、どこからともなくドカドカと軍隊がやってきた。鉄クズたちを叩きおとす。
鉄クズA2は9999のダメージを受けた。鉄クズA2は倒れた。
鉄クズA3が現れた。
鉄クズA3は9999のダメージを受けた。鉄クズA3は倒れた。
鉄クズB2は9999のダメージを受けた。鉄クズB2は倒れた。
鉄クズB3が現れた。
鉄クズC2は倒れた。
鉄クズC3、鉄クズD3が現れた。
鉄クズE4、鉄クズF5が現れた。
ええーっ? どうなってんの? 叩きおとされるそばから、さらに鉄クズの援軍が次々、現れる。
「……こんなに鉄クズだらけだったんだ」
「ものすごい数ですね」
「かーくんが傭兵呼びにしといてよかったがね。じゃないと、倒しても倒しても、まだまだ出てきとったが」
千……いや、一万匹は出てきたんじゃないだろうか?
傭兵さんたち、ありがとう。
これ、全部、僕たちだけで相手してたら、確実に全滅してた。
すべての鉄クズを倒しつくして、傭兵さんたちは去っていく。
なんとか勝てた。
これでもう安心だ。
と、その瞬間だ。
ヨロヨロしながら、一匹の鉄クズが立ちあがる。いや、立つっていうか、浮かびあがるんだけど。
「ほほう。ふんばる、だな」と、足モゾおじさんが言う。
「鉄クズは千分の一の割合で、ふんばるを使うことがあるんだ」
ええーッ? ふんばる?
戦闘不能のダメージ受けても根性で残る特技?
自爆の上にそんなのまで……。
まあ、いいや。
僕の行動がまだ残ってるしね。
「あれ?」
「かーくん。どげした?」と、アンドーくんに聞かれ、僕はあわてる。
「動けない」
「なんでだ?」
またまた足モゾおじさんが言った。この人、なんでも知ってるな。
「傭兵呼びを使ったターンは、素早さの数値が残っていても行動終了になる。君の素早さはかなり高いな。次からは傭兵呼びは行動の最後にしなさい。それなら行動数がムダにならない」
そうだったのか。知らなかった。
でも、じゃあ、あの鉄クズはどうする? 絶対、次のターンで爆発するよね?
一匹だけだから、バランとシルバンが蘭さんのことは守ってくれるだろうけど。
そう思ったときだ。
倒れた鉄クズの山から、ふらり、ふらりと、ほかにも数匹の鉄クズが浮いてくる。
千分の一の割合でふんばる——つまり、十匹は生き残ってしまったんだ!
ど、どうしよう?
あれが全部、ちらばるのか?