第289話 小型ゴドバ
文字数 1,611文字
小型ゴドバは城内のあちこちを逃げまわる。オークに出会うと襲いかかってかみついた。
「こらー! やめろよ!」
「ウゴーッ!」
そのたびに僕は追いかける。でも、僕が近づくと逃げてくんだよな。
完全に空腹で暴走しちゃってるな。
ああっ、前方に食堂がある。前に僕らが通ったホールのある場所だ。逃げおくれたオークたちが、まだけっこうな数そこにいた。
「ウゴー! ウゴー!」
ゴドバはオークたちのかたまりにつっこんでく。見てる前で、グンと大きくなった。オークの数人が白目をむいて倒れる。たぶん、数値を吸われたんだろう。
でも、そのせいでゴドバは立ちどまってる。僕は背後から切りかかった。
「えい!」
「ウゴーッ!」
こいつ、さっきから「ウゴー」しか言わないな。やっぱり、もとが右腕だから、知性は低いのか。
チャララララ〜。
右腕ゴドバを倒した。経験値五千五百、五千五百円を手に入れた。ゴドバの灰を手に入れた。
「わあー! また灰ー! ミャーコー!」
「ミャー!」
ゾゾーっと吸いとる灰、灰、灰。けど、やっぱり全部は吸いとれないんだよね。半分くらいで、また復活。
ほんとは倒さないで捕まえたいんだけど、ほっとくとオークが食べられちゃうから、そうもいかない。止めようとすると倒しちゃうんだよな……。
「みんな、ここは危ないから逃げて!」
「に、人間?」
「そんなこと言ってる場合じゃないから。僕はゴドバを追っかけるからー!」
そうこう言ってるうちにも、目の前で食べられそうになってるオークが!
あっ、あれは僕にオマケのカードをくれた雑貨屋のおばさん!
「やめろーッ!」
ダメだ。このままじゃ、まにあわない。おばさんが食べられちゃう!
僕は夢中でミャーコポシェットのなかから手にあたったものをつかみだした。赤いカードだ。それをゴドバの背中にむかってなげる。ポッと小さな火がともる。燃えろ〜だ。
「ミャーコ! 魔法カード。出して!」
「ミャ!」
僕は次々、ミャーコの口から吐きだされるカードをなげる。戦闘中に使ってるわけじゃないから、たいしたダメージはあたえられてないみたいだけど、ゴドバはひるんだ。
「おばさん、逃げてー!」
「ぶ、ブヒ……」
よろめきながら、おばさんはあとずさる。
そのすきにかけよると戦闘音楽が聞こえた。やっと戦闘できるまで間合いをつめたぞ。
僕は背後から、とびげりをくらわした。これは素手攻撃になるみたいだ。ウゴーと雄叫びをあげて、ゴドバがふりかえる。
よかった。まにあったー!
「おまえの相手は僕だ。逃がさないぞ」
「ウゴウゴ!」
とにかく、いろいろキモイんだけど、やっつけるわけにもいかないし、外までひっぱりだすしかないのかな?
コレのほかにも、まだ左腕、両足、首がどっかにいるはずだ。全部つかまえるには、どれくらい時間がかかるのかな?
「そこにおるんは、かーくんか?」
「シャケ? どこにいるの?」
「上や。上」
ホールの吹きぬけを見あげると、二階の回廊の手すりに、シャケとアジがいる。その前に長いズルズルしたものが——ああっ! 左手か!
「かーくん、助けてくれへんか。コイツがな。攻撃すると数値、とってくんねん」
「ああ。ちょっと待って。さきに元右腕を倒すから!」
気づいたけど、力とか知力とかつまみ食いして、外までひっぱりだせばいいのか。
「つまみ食い!」
チューチュー。チューチューチュー……コウモリか蛇の丸焼きっぽい。マズイ!
でも、これで無抵抗になった。ズルズル裏口までひっぱっていくと、猛がいる。
「兄ちゃん! これ、お願い」
「ああ。かーくん。兄ちゃん。そろそろ、力の数値がふりきってしまいそうなんだよな」
「大丈夫。コイツの力は僕が食ったから。はい。これ、ロープ! 僕はほかの部位も捕まえてくる」
「気をつけろよ!」
このときは猛が何を心配してるのか、よくわかってなかったんだよね。僕らの数値が全部マックスになってしまったら、大変なことになるって。