第68話 ピョンとミルキー城
文字数 1,923文字
悪のヤドリギとの決戦があったミルキー城。
蘭さんが生まれ育ったお城。
復興したところを見るのは初めてだ。
街やお城の見張りもしっかりしてる。前によく見かけたならず者はもういない。おだやかな夜の顔をとりもどしていた。
「わあっ、夜のミルキー城。明かりが白壁に反射してキレイだねぇ」
「そうでしょ? こっちに来てください」
「あれ? お城に行くんじゃないの?」
「かーくんに早く見せてあげたくて」
なんと、蘭さんが案内したのは、前に僕を泥棒あつかいした武器屋だ。ネズミなランドのお土産物屋風の外観なんだけど……。
「あっ、武器屋じゃなくなってる!」
「そうです。なか、入ってみてください」
「僕、また泥棒って言われるんじゃないの?」
「もう大丈夫ですから」
背中を押されて入っていくと、おおっ、この感じは、もしや?
「ギルド?」
「はい。そうです!」
うん。受付があり、小さい酒場があり、武器屋と防具屋がならんでて、雑貨屋がある。二階には教会と銀行と職業斡旋所、それに情報屋か。
「まだ規模は小さいけど、ミルキー国でもギルドを建設したんです。ボイクド国と提携して、おたがいの国のギルドで銀行やアイテムのやりとりをできたら便利になるなって。今はまだ調整中なんですけど」
「へぇ。それは便利になるね」
「ええ。職人や技師を招いて、鉄道も敷くところなんですよ。でも、うちはまだ資金が少なくて。国家予算から援助するにしても、ヤドリギに占拠されてたときの痛手があるから、大金はさけないし」
「いいよ。じゃあ、僕、寄付する」
「ほんと?」
「うん」
僕にとっては小銭。小銭。
手元に残ってた端数から、百億円を出す。
ミルキー国ってよく考えたら、あんまり旅してないんだよな。もしかしたら、そのうち、こっちも歩きまわることになるかもしれない。それまでにギルドが発展してくれてたほうが、僕としても助かる。
ジャラジャラと金貨を受付のカウンターに載せてると、二階から急いでかけおりてくる足音がした。
「お兄さま!」
スズランだ。
あいかわらず、可愛いなぁ。
ミニスカ風のローブが似合ってる。階段からおりると……えっ? 見てないよ? うん。見てない。
だって、スズランって、外見はすごく美少女なんだけど、性格が僕とあわないんだよね。冷たいっていうか。
「お兄さま。よかった。元気そう」
「まだ旅に出て二日めだよ?」
「だって、お兄さまはときどきムチャをなさるから心配で」
蘭さんと笑いつつ話してるようすは、まるで美人姉妹。ひさしぶりの目の保養だ。
「あっ、それより、スズラン。じつはお願いがあってきたんだよ。ぽよちゃんを転職させてくれない?」
「お兄さまの頼みなら、なんでも聞きますよ」
僕の頼みは聞いてくれないスズランさん。ぐすっ。
とにかく、いつもの転職だ。スズランさんはマーダー神殿で修行してた祈りの巫女だからね。
「ぽよちゃんさん、何に転職するのですか?」
「キュイ」
「小鳥師ですね?」
いつも思うんだけど、動物やモンスターの言葉がわかるスズランさん、羨ましい。せめて、ぽよちゃんの言葉くらいは理解したいもんだ。
「では、小鳥師の気持ちになって祈りなさい」
「キュイ」
「今日から、あなたは小鳥師ですよ」
「キュイ!」
あっ、ぽよちゃんの素早さと器用さが5%プラスされた。小鳥師の就労ボーナスか。
「そう言えば、僕、魔法使いマスターしたかな? あっ、やっぱりしてる」
「あっ、わも武人マスターしたけん」
「僕もですね。二つもダンジョン
そうだった。スラム街に行く前に転職しとこう。次は何がいいかなぁ?
「僕は大富豪になるために、山賊と海賊にならないといけないんだった。山賊か海賊になるには、どうしたらいいのかな?」
「それでしたら、漁師と盗賊、猟師と盗賊ですね」と、スズラン。
あっ、待てよ。その前になんかになっとけば便利だって、ワレスさんが言ってなかったっけ?
「あっ、そうそう。ニートだ。ニートになっとけば、職業習熟度が早くあがるって」
「ニートですね? かーくんさんはニートになる条件を満たしていますよ」
「じゃあ、ニートでお願いします」
現実世界でこんなにワクワクしながらニートと言ったことが一度でもあっただろうか?
でも、その響きにはもっと警戒しとかないといけなかったんだ。
「では、かーくんさん。ニートの気持ちになって祈りなさい」
「はい」
ニートの気持ちって、どんなだろう? 部屋でずっとマンガ読んでる感じ? それともスマホゲームざんまい?
「かーくんさん。今日からあなたはニートです」
「はい」
わ〜い。ニート、嬉しいな。
と思ったら、やられた。
就労ボーナスが、いろいろマイナスだ。