第299話 待ちに待った勇者

文字数 1,613文字



 こっちに向かって飛んでくる何か。
 それはみるみるうちに大きくなり、空飛ぶ馬車だとわかった。

「馬車が飛んでくる!」
「魔法だろうな」
「だろうね」

 やがて、近づくと、御者台にすわるワレスさんや蘭さんの姿が見えるようになった。

「だから、僕たちだって好きで遊んでたわけじゃないですよ。そういうあなたはイカサマですよね? じゃないと、あんなに早く勝てるわけがない」
「だから? だからなんだ? イカサマだろうとなんだろうと、サッサと終わらせて戦線復帰すべきだろう?」
「そうですけど……僕にはイカサマなんてできません。だって、やりかたがわからないから!」
「ふん。手のかかるお姫様だな!」

 よくわからないけど、スゴイ言い争ってる。でも、見たところ、蘭さんにケガはないみたいだ。馬車が降りてくると、ほかのみんなも元気だった。
 いや? ちょっと疲れてる? 精神的に疲弊(ひへい)してる、みたいな?

 まあいいや。やっと帰ってきてくれたー!

「ロラーン! ワレスさん! 待ってたんですよぉー!」

 寸前までの口論がウソのように、僕の英雄がニッコリ微笑みかけてくれる。ご機嫌はなおったようだ。

「すまなかったな。この世間知らずのお姫様が、バカ正直に鉱脈のぬしとカードゲームで遊んでたものだから」

 あっ、違った。イヤミを言いたかっただけか。

「遊んでたんじゃないです! 僕らはぬしと真剣勝負を——」
「いいから、自分の役目を果たせ。選ばれし勇者。おまえにしか、ゴドバは倒せないんだ」
「急に倒せって言われても……」

 あいかわらず仲がいいのか悪いのか。微妙な二人。

 僕は事情を知らない蘭さんに状況を説明した。

「——ってわけで、ゴドバの使う『進化』って特技が問題で。あと、復活は倒したときに灰をみんなのバッグのなかに吸えば、止めることができるから。全体の五割以上の灰を密閉することができれば、復活を止められるんだって」

 ワレスさんが素早く作戦を立てた。

「人数が多いな。ヤドリギのときのように、パーティーをわけよう。そして、ヤツを倒した瞬間にいっせいに灰を採取する」
「灰になってから五分間が勝負です。僕一人だと、どうしても半分くらい残ってしまって」
「五分だな。おれは一人でいい。おまえたち二手になって行動しろ」
「わかりました!」

 馬車と猫車の組みで、散開していく。相手は違うけど、ワレスさんとした特別試合のときみたいな陣形だね。ゴドバをかこんで、三角形を作る僕ら。

「やっと心置きなく倒せるね」
「せやけど、かーくん。おれら、力なくなってもうたで」
「ちょっと待って。レベル1に戻すから。ちょっと、そのへんのブタさんにケンカふっかけてきてよ。たぶん、レベルアップしたら、吸血でとられた数値は元に戻るはず」
「なるほど! ほな、行ってくるわ!」

 僕はシャケとトーマスを送りだした。アジは残る。

「おれはさ。力より知力で戦う派だから、レベルだけ下げてもらっとけば、それでいいよ」

 というわけで、僕とタケルとぽよちゃん以外のレベルを1にさげておく。

「じゃあ、行くよ? 僕、断捨離するからね!」
「いっせいに攻撃できたらなぁ。おれもやるのに」
「猛はいつでもバッグ使えるように準備しといてよ」
「わかった」

 やっと遠慮なく倒せる。
 NPCでもカバンは持ってるみたいだから、アジやスズランも数に入れていい。たまりんはお腹が見えないバッグになってるみたいだけど、バランにもそういうのがあるなら、頭数に入る。
 今度こそ、すべての灰を集めて、ゴドバの息の根を止めるんだ。

 やるよ。断捨離!

「百億円!」

 僕は可愛い百億円金貨を一枚、ぽいっと脇にすてた。すてられた金貨は、すうっと消える。サヨナラ。またどこかで会おうね!

「行くぞ! ゴドバ!」

 風のように走る僕。
 間近に迫るけど、ゴドバの身長が高すぎて、ひざから下しか見えない。頭部は雲の上だ。

「えい!」

 ぽすっと弁慶の泣き所をたたく。
 ゴドバの巨体がグラリとゆれた。
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