第25話 チート勇者誕生?

文字数 1,581文字



 さすがは計算高い蘭さんだ。
 いい選択するね。

 力と体力はそれぞれ、攻撃力と防御力に直結してる。しかも、体力の数値が高いと、そのぶんレベルアップのときにHPもよく伸びる。一つの項目をあげることによって二つの項目を伸ばすに等しい。

 その上、攻撃力と防御力は戦闘中の補助魔法でアップできる。
 一回の『がんばろ〜』であがる攻撃力は、自分の力最大値の10%ていどだ。ただ、もとの値が五万を超えてたら、一回補助魔法をかけるだけで、数値は五千もあがる。二回めなら五千五百。三回めで六千五十。この調子で魔法をかけ続ければ、8ターンめには、攻撃力はマックスの99999になる。防御力も同じ。

 蘭さんはそこも計算に入れて、上昇させる数値を二つの項目にわけたのだろう。

 そもそも、これまで敵対したモンスターたちのなかで、攻撃力が万に達してるヤツなんて見たことがない。
 四天王の悪のヤドリギでさえ、攻撃力じたいはたぶん、200とか300だった。ケタがぜんぜん違う。

 攻撃力50000。
 これ、もう人間としていちゃいけないレベルでしょう。チートにもほどがある。

「う、うう……僕も力あげとくんだったなぁ」
「かーくんはつまみ食いでまだまだ増やせるじゃないですか」
「そうだけど……」

 まあ、たしかに、勇者の蘭さんが魔王も一撃で倒せるほど強くなっておくことは悪くない。

「じゃあ、力と体力を五万ずつだね?」
「はい。やっちゃってください!」

 ああ、蘭さんの目がキラキラしてる。これから自分が無敵になれるんだもんね。あのワレスさんでさえワンパンだ。
 あれ? まさか、ワンパンして仕返ししてやろうとか考えてないよね? 前に勇者なのに弱いって言われたから?

「早く。早く。かーくん。早く」
「う、うん」

 いちまつの不安をおぼえつつも、僕は蘭さんの数値を呼びだした。

 レベル28(職業 魔道戦士)
 HP288(317)、MP135(148)、力103(113)、体力91、知力131(144)、素早さ191、器用さ134、幸運144。

 僕は蘭さんの力を50000(55000)と書きかえた。
 そのとき、すでになんか違和感はあった。スマホが急に熱くなって、熱暴走起こしたみたいだ。

「ん? 電力が8%しか残ってない?」

 変だな。ついさっきまで28%残ってた気がしたんだけど?
 まあいい。充電できるまで、あとちょっとだ。研究所さえ攻略できれば。
 とにかく急いで、蘭さんの体力だけあげてしまおう。書きかえなんて、ほんの数秒だ。8%あれば充分まにあう。

 僕はあわてて、蘭さんの体力の数値を上書きするために、いったん消す。

 ところがだ。体力のよこの数字を消して、さあ、書きこもうと5まで入れたときだ。
 とつぜん、僕のスマホはブラックアウトした。プツンと画面が消える。

「ああッ! 電力切れた!」
「ええっ? どうしたらいいんですか?」
「スマホの電池を充電したらいいんだよ。もともと、そのためにこの研究所に来たんだから」

 蘭さんはホッとした。
「なんだ。じゃあ、防御力はいったん、おあずけですね。まあいいです。力はあがったから、ササッと攻略してしまいましょう!」と言ったのち、蘭さんの顔がひきつる。

「ど、どうしたの? ロラン」
「あれ? 僕の体力……」

 蘭さんのようすが変だ。あきらかに周章狼狽(しゅうしょうろうばい)してる。四文字熟語も使えるかーくん。

 イヤな予感がしつつ、蘭さんのステータスを見なおした。スマホが消えても、ステータス画面は見れるからね。

 そして、僕は絶句する。
 これ、どういうことだ?

 蘭さんのステータス。
 レベル28(職業 魔道戦士)
 HP288(317)、MP135(148)、力50000(55000)体力5、知力131(144)、素早さ191、器用さ134、幸運144。

 ギャー! 蘭さんの体力がレベル1に逆戻りしてしまったー!
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