第175話 夢の巫女はヒノクニの王女?
文字数 1,366文字
僕がタジタジとなって、あとずさっていると、ゴライは言った。
「あんたはセイラ姫の友人なのか?」
「えっ?」
セイラ? セイラは可愛いよね。彼氏にだけ一途にベッタリ甘えん坊ってとこが。僕らには口もきいてくれなかったけどねぇ。
「えーと、友達って言うか……」
「昼間、会場のバックゲートで話してた」
「ああ」
なんだ。本物じゃないのか。そっちのほうね。
「あれはセイラ姫じゃなくて……」
「どう見ても姫だ。姫があんなに強いとは知らなかったが」
「ははは……」
うーん。勘違いしてるなぁ。
あれはセイラじゃなくて、蘭さんなんだけど。
似てるもんね。姉妹みたい。蘭さん、双子だよね? ほんとは三つ子じゃないよね?
「な、なんでですか? セイラ姫に用が?」
僕はさぐりを入れてみた。
もしも昼間、蘭さんを襲ったのがゴライなら、じつは蘭さんではなくセイラを狙ってた可能性が出てきたからだ。人違いだと言いきってしまうと、セイラが危険になるかもしれない。
だが、ゴライはますます意外なことを言う。
「夢の巫女はヒノクニの王女だというウワサがある。セイラ姫がそうではないのか?」
「えっ? そうなんですか?」
「…………」
どうやら、ゴライは僕に聞いてもムダだと思ったらしい。その読みは当たってる。だって、ほんとに知らないもんね。
そうか。夢の巫女はセイラなのか。
そう言えば、夢の巫女はヒノクニの人だって、道中で聞いたなぁ。でも、なんか、ものすごい変人だって話だったけど……。
ほんとに、セイラが夢の巫女? 人見知りが激しいけど、変人って言うのとは、ちょっと違う気がしたけどなぁ。
ゴライたちは去っていった。
それにしても、なんで、ゴライは夢の巫女を探してるんだ? やっぱり裏がある。何か企んでるのかな?
僕は悩みつつ、急な尿意を思いだし、トイレにかけこんだ。セーフ。まにあった。
席に帰ったあと、僕は猛に相談してみた。
「——って話なんだけど、どう思う?」
「だとすると、昼間のことも蘭をさらおうとしたわけじゃなく、夢の巫女をつれだしたかったってことだろ。ヤバイんじゃないか?」
「だよね」
「魔王軍の手先かも」
「だよね! てか、兄ちゃんも人のこと言えないよ?」
「ははは。兄ちゃんは違うよ〜」
「だよね〜」
ハッ。どんな話題でもなごんでしまう!
「今夜、蘭さん、大丈夫かなぁ?」
「明日には大衆の前で、姫様がメダルかなんかくれるんだろ? そしたら別人だって知れ渡るんだけどな」
心配なのは今夜なんだよね。何事もなければいいけど。
「ねえ、猛。もしかしてさ。ゴライがゴドバなのかな?」
「名前は似てるよな」
「背だってすごく高いし、ゴドバが化けたっぽい」
「だけど、かーくん」
「うん?」
猛はほざいた。
「羊、一人前追加」
「まだ食うか!」
「うまい。うまい」
肉を頼んだあと、猛は真顔に戻った。肉を食う手と口は止まらない。
「けどな。ゴライは二年前から大会で優勝してるんだろ? だったら、ゴドバじゃないよ。ゴドバが腕を切られたのは、つい最近だ」
「まあそうだよね。ゴライがゴドバだとしたら、二年前から人間に化けて大会にもぐりこんでたってことになる」
ただ、夢の巫女を探すためだとしたら、それもなくはない。
なんにせよ、ゴライが怪しいのは確実だ。
こんな状態で明日は決勝か。
ゴライと対決。
怖い……。