第104話 窓にへばりつく不審者
文字数 1,548文字
「それにしても、武闘大会って誰でも参加できるんですね。ワレスさんが推薦の話してたから、選ばれた人しか出られないんだと思ってた」
「推薦枠は各国ワンパーティーだけだ。推薦パーティーはシード対象になり、予選を戦わずして本戦にのぞめる」
「ああ、そういう特典があるんだ」
「ふはは。ほんとに強いわしらには推薦など必要ないがな」
「そうですか……」
あっ、でも、僕らはワレスさんの推薦を受けられるんじゃなかったかな?
「今年のボイクドの推薦は、トーマスパーティーだって話だな」と、ダルトさんは続けて言った。
あれ? そうなのか。僕らじゃないのか? 蘭さんには会えないし、どうなってるのかな。
「じゃ、僕ら予選で会うかもですね。僕もさっき、エントリーしたんで」
「ふん。小僧には負けんよ」
「ははは……」
ダルトさんのとなりでキルミンさんは苦笑してる。この人も大変だな。
僕は二人と別れて、餃子の玉将に帰る。
さ、ご飯。ご飯。店名はタマ将だけど、味は本家に劣ってないよ。あのフワフワの天津飯は、うちじゃ作れないんだよねぇ。
僕が鼻歌まじりに歩いていくと、玉将の前で、見るからに不審者がいた。窓にベッタリ張りついて、なかをのぞきこんでる。うっ、あれって、僕らのテーブルの位置だよね。
ヤダな。さっき変な男のあと尾行したから、さっそく事件にまきこまれちゃったかな?
それとも僕が大金ひけらかしてたから狙われた?
いや、でもそれなら、窓に粘着してないよね? 僕のことを襲ってきそうなもんだ。
よこから、よーく見ると、まだ子どもだ。そして、ものすごいダラダラ、よだれたらしてる。なんだ。食べ物か。お腹へらしてるんだな。
「ん? もしかして、アジ?」
「あっ、シャケ兄ちゃんの友達」
「こんなとこで何してるの?」
「兄ちゃんとはぐれてしまって」
「そうなんだ。シャケもヒノクニに来てるの?」
「たぶん。わかんないけど」
数日見ないうちに、ちょっとやせたんじゃないかな。これは、ほっとけない。
「いっしょに食べる?」
「いいのッ?」
「いいよ。シャケに会うまで、僕らといようよ」
「ありがとう!」
素直だな。
お店に入ったあとのアジの食欲はもっと正直だった。魔法の胃袋を持つわが兄と、かなり互角にやりあえてる。よっぽど空腹だったんだな。
「へぇ。これが三村の弟か。あんまり似てないな」
「言葉も大阪弁じゃないよね」
現実でなら怒るくらい食べまくってる兄にも、今日の僕は寛容だ。ふふふ。何万円ぶんでも食うがいい。ブラックホール胃袋やろうめっ。
「ミムラって?」と首をひねるアジに、「あ、ごめん。ごめん。シャケのことだよ」
「ふうん。おれたち、兄弟姉妹はたくさんいるけど、みんな血はつながってないんだ」
「えっ?」
「僕らは孤児だったんだ。魔王軍の進攻で親を亡くしたり、迷子になったやつらばっかりでさ。それをシャケ兄ちゃんや、ホッケ父ちゃんがひろって育ててくれたんだよ」
ホッケ! 孤児を育てる偉大な人だけど、その名はホッケ……。
まあ、そこはいいことにしよう。海産物にきっとなんらかのこだわりがあるんだろう。
「あっ、なんか聞いたことあるぞ。ホッケさんって人、腕のいい人形師じゃなかった?」
「そうだよ。父ちゃんは伝説の人形師って呼ばれてる。だけど、二年前から行方不明なんだ」
ん? 伝説の行方不明者?
それは前にもどっかで聞いたな。
えーと、でもそれは解決したような?
ああ、あれか。ボイクドで伝説の鍛冶屋って呼ばれてたおじさんが行方不明になってたやつ。あれは僕らが助けてあげて解決したんだけど。
んんー、気になるね。
鍛冶屋のおじさんはヤドリギに捕まって牢屋に入れられてたんだよな。ヤドリギはもういないけど、四天王はまだいる……。
まさかね。さらわれてなきゃいいけど。