第156話 別荘侵入

文字数 1,636文字



「おじゃましまーす」

 通用口をひらいて、なかへ入る。立派な前庭だ。完全に武家屋敷だなぁ。枯山水の石庭に、ところどころ松の木が島のように植えられている。

 お屋敷は外から見た感じ、無人。

「あッ。小銭発見! やっぱり、ダンジョンなんだ」
「小銭じゃないよな? 大金だよな?」
「僕の特技的には小銭なの!」

 あいかわらず、猫車のまま屋敷のなかへ侵入できる。
 玄関は広い。門からまっすぐ進むと右端にあった。玄関の戸口はあけっぱなしだ。

「怪しいけど、行こうか」
「怪しいけどな。行こう」

 洋館のダンジョンはさ。クツのまま歩きまわっても悪い気がしないんだけど、和風建築に土足であがりこむのって、なんか良心が痛む。とは言っても、風神のブーツぬいでくわけにもいかないんで、当然、土足なんだけどさ。猫車つれてる時点でアウトか。

 玄関をあがると、長い廊下。片側が縁側になってて、反対には(ふすま)がならんでる。

「誰かいるのかなぁ?」

 お姫様はいずこ?
 ああ、美しいお姫様を救出しに行くなんて、RPGの基本じゃないか。こういうシチュエーションを待ってたんだよ。言っても、すでに恋人のいるお姫様だけどね。

 ふすまをあけると、豪華な座敷。六畳くらいの部屋だ。ふすま絵は金泥に極彩色の花鳥画。違い棚には高そうな香炉(こうろ)や茶碗なんかが置いてある。

「誰もいない」

 宝箱もないしな。
 次だ。次。

 次の間も無人。
 その次も。

 だけど、そのとなりのふすまをひらいたときだ。床の間に人形が飾られていた。いかにも日本人形って感じの市松人形だ。

「…………」
「…………」

 なんか人形と目があった気がしたけど、錯覚か。

 僕がふすまを閉めようとしたときだ。
 ん? あの人形……笑った?

「た……猛」
「どうした? かーくん」
「あの人形なんだけど」
「うん?」
「笑ってない……よね?」
「人形なんだから、笑ってるもんだろ?」
「いや、そうじゃなくてさ。最初は笑ってなかったんだよ」
「そんなバカなことあるかって。かーくんは怖がりだなぁ」

 はははと笑いながら、猛が手を伸ばして人形を持ちあげようとした。

「ああッ、猛!」
「ん? なんだ?」

 やっぱり勘違いじゃなかった。人形の口がパックリあいて、ギザギザの歯を見せながら襲いかかってきた。


 チャララララ……。
 野生の市松人形が現れた!
 野生の市松人形はとつぜん襲いかかってきた!


 やっぱり!

 市松人形はサメみたいなするどい歯で、猛の耳にかみついた。

「うわッ!」
「猛! 大丈夫?」
「イテテ。大したことないよ」と言ったあと、でも、猛は変な顔をした。

「猛?」
「聞き耳が使えない」
「えっ?」


 タケルは聞き耳を封印された。この戦闘中、聞き耳を使えない。


 わッ。やな敵だなぁ。
 先制攻撃で相手の特技を封じてくるのか。

「でもまあ、聞き耳なら、ぽよちゃんも使えるから。ぽよちゃん、聞き耳!」
「キュイ!」

 お耳をピクピクする、いやしのぽよちゃん。
 あれ? ぽよちゃんも困った顔してるぞ。

「キュイ……」
「かーくん。ぽよちゃんが聞き耳できないって言ってるぞ」
「えっ? でも、耳かまれたの、猛だよね?」

 すると、テロップが告げた。


 市松人形の特技『封じ噛み』の効果で、同じ特技を持つパーティーメンバーは全員、その特技を封じられる。


「そうなんだ。つまり、今は猛とぽよちゃんが使える技だったから、二人が封じられたんだ」

 聞き耳ならまだしも相手の情報を知るだけだ。勝利に必須ってわけじゃない。
 でも、封じられたのが必殺技だったりすると、すごく困る。たとえば、僕の傭兵呼びとか。

「とにかく倒そうよ」
「よし。お仕置きしてやらないとな」

 ペン、と猛が剣でたたくと、市松人形は床の間に落ちた。


 チャララララ〜
 戦闘に勝利した。経験値350、200円手に入れた。
 市松人形は宝箱を落とした。
 お札を手に入れた。

「なんだ。わりとあっけなく勝てたね」
「今はな。一体だったから」
「うん」

 たしかにほかのモンスターと出てきたら、やっかいかも。次は気をつけよう。
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