第115話 武闘大会前夜の影

文字数 1,544文字


 白虎に勝った。
 白虎の守護石はキレイなホワイトゴールドを座金にした青色の猫目石(キャッツアイ)のペンダントだ。装備品魔法が神獣の気だ。

「わ〜い。やったー!」
「よかったな。かーくん」
「兄ちゃんが推理してくれたから勝てたんだよ」
「ははは」

 白虎はしばらくすると目をさました。頑丈だなぁ。

「よくやったな。そなたを認めよう。わが助けの必要なときは呼ぶがよい」

 またまた出てきたとき同様、白いケムリが湧いて、白虎は消えていった。

 これで安心して、明日の大会にのぞめるぞ。

 僕らは街に帰ると転職した。僕は大富豪。猛は竜王。ぽよちゃんは暗殺者。なんと、武人と僧侶でなれる。たまりんは詩神に戻った。猫たちは弓使い。

 いらないお金は貯金して、所持金を三百億ほどにした。傭兵呼びには充分な額だ。

「さ、明日のために今夜はもう寝ようよ」
「そうだな」

 僕らは宿の庭を借りて、猫車のなかで寝る。お風呂は銭湯だ。日本では江戸時代から湯屋があるからねぇ。

「おやすみっ、猛」
「おやすみ。かーくん」
「アジもおやすみね」
「むにゃ……」
「も、もう寝てる」
「ははは」

 なにしろ特訓で疲れてるから、あっというまにグウスカ寝る。

 ところが、真夜中だ。
 どこかでボソボソ話し声が聞こえる。
 うーん。ウルサイな。誰だよ、夜中に……猛?

 寝返りを打って、もう一度、目をつぶろうとした僕は、ハッとした。
 違うぞ。猛じゃない。猛は僕の目の前で熟睡中だ。
 じゃあ、誰だ?

 僕は眠い目をこすりながら起きあがり、耳をすました。男の声だ。二人か三人いる?

「いいか。必ず見つけるんだぞ。この国のどこかにいるはずだ」
「はい。お任せくださいませ。このザルーめの技で必ずや、魔王さまに献上してみせます」

 ん? 今、魔王って言った?

 僕は気になって、猫車のほろ布のすきまから外をのぞいた。姿は見えないけど、庭に面した廊下の壁に影が二つ映ってる。一つは巨人みたいに大きな男。もう一つはやせ型だけど、妙に耳がとんがって、口元にするどい牙がある。

 ゴクリ。魔物だ。
 なんで、こんなところに魔物がいるんだ?

「必ずや夢の巫女をとらえるのだ」
「御意」

 魔物が夢の巫女を狙ってる!
 僕は急いで、猛を起こした。あれがどんな魔物なのかわからないけど、今すぐ倒さないと。まあ、僕一人ではちょっと不安だったわけだ。

「猛。猛。起きてよ」

 猛は起きてこない。それどころか、ゆりおこそうとする僕の手を寝ながらふりはらった。なんて器用なヤツだ。

 僕らの気配に気づいたのか、ふいっと影が消えた。

「猛! 早く、起きてってば。魔物がそこにいるんだよ」
「んん……? かーくん、寝ぼけたのか?」

 寝ぼけてるのは、おのれじゃー!

 そうこうしてるうちに、やっと猛は起きてきたんだけど、当然のことながら、魔物はとっくにいなくなってた。

「なんだよ。かーくん。何もいないぞ」
「いないんじゃないの。いなくなったの!」
「ふうん?」
「夢の巫女をつかまえて、魔王に献上するって言ってたんだよ」
「それって、どんなやつ?」
「えーと、姿は見えなかったけど、影は見た。大男とヒョロッとやせた男。それで、ヒョロッとしたほうがザルーって呼ばれてた」
「ザルーか。聞いたことあるな。たぶん、ホウレンの配下だな」
「ホウレン?」

 これは意外。てっきり、大男がゴドバだと思ったんだけどな。ここで義のホウレンの名前を聞くとは思わなかったなぁ。

「うーん。三人の巫女を集めるために、義のホウレンが動きだしたってことかな?」
「たぶん、そうだな。ヤツらよりさきに、おれたちが夢の巫女を見つけるしかない」
「うん」

 スズランも心配だな。
 シルキー城は前に魔王軍に襲われて陥落した。つまり、王城にいるからって安全じゃないってことだ。

 早く蘭さんたちに会って、相談しないと。
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