第62話 VIPな商店
文字数 1,719文字
明日はスラム街へ出発。
ちゃちゃっと解決して、そのあとはヒノクニで武闘大会だぁ〜
楽しみ。楽しみ。
だけど、その前に、久々にギルドへ行ってみよう。
「ロラン。アンドーくん。ギルドに行こうよ。僕さ、この前、ゴールド会員になったから、一点物だけを集めた高級ショップに入れるようになったんだ。どんな商品が置いてあるのか見てみたい」
「わあっ。素敵なムチが置いてないかなぁ」
ムチ……またムチ?
「わも行っていい?」
「いいよ。ついでだから、今夜は外食にしよう」
「いいですね」
えへへ。たまには気晴らしも必要だよね。いつも戦いばっかりじゃ疲れるからねぇ。
最近、それでなくても女の子の気配がまったくないし。スズランさ〜ん。
さ、街だ。街。ギルドに行こう〜
あっ、正しく“〜”を使ってる。
さて、僕らは夕方の街にくりだした。モンスターひきつれて、ギルドに到着。王都のギルドは大きいからねぇ。一階には酒場もある。
「まだここで食べたことないよね。美味しいのかな?」
「でも、かーくん。なんか……スゴイ人じゃないですか?」
それはね。僕も思ってた。
酒場は一階の出入口にあるんだけど、もう冒険者でウジャウジャ。テーブルが見えない。通路が見えない。
「おおッ! 今日もありがとよ!」
「ありがてぇ。ありがてぇ。これで当分、遊んでられるぜェー」
みんなが僕を見ておがむ。あがめたてまつる。もう教祖だよね。
うん、そりゃね。毎回、一人につき数万から数百万円も傭兵呼びで支払ってるわけだから。傭兵にとっては神さまみたいなもんか。恵みの神だ。
「うーん。ここで食べることは不可能そうだね。あとで近場のレストランでも行こう」
「そうですね」
というわけで、まず目的の高級ショップだ。
一階には通常の武器屋や防具屋もあるんだけど、そこはもう今の僕には関係ない。以前にとっくにチェックしてるからね。
「あ、あそこだね。あの奥」
酒場をつっきって、奥のところに細い廊下がある。そこをまっすぐ奥へ進んでいくと、やがてゲートが見えた。
ゲートと言っても『WELCOME VIP』と描かれた看板を金ピカな浮き彫りの柱で支えた、派手派手しいやつだ。
このゲートは前々から見えていた。ここからなかへ入ることが夢だったんだ。
僕がゲートの前に立つと、おおっ、自動ドアだ。異世界で自動ドアは初めてなんで、ちょっと驚いた。
「かーくんさま。いらっしゃいませ」
天井から声が降ってくる。ギガゴーレムと同じ女の人の声だ。サンプルに使ってた人が同一人物なんだろう。
シュッと、すりガラスの扉がひらくと……。
「ま、まぶしい」
「キラキラしてますね」
床や天井が光を反射してまぶしい。でも照明じたいは高級バーみたいに薄暗かった。
「いらっしゃいませ」
「いらっしゃいませ。お客さま」
「どうぞ、こちらでおくつろぎくださいませ」
むっ、むう。タキシードや上品なスーツを着た美男美女が出迎えてくれる。こ、ここは、キャバクラか?
「本日は何をお求めですか?」
なんか気がついたらマントを外され、美女に手をひかれて、ふかふかの椅子にすわっていた。そして、サッとサービスドリンクがふるまわれる。
ふだん、高いお店に入ったことないから、緊張するよ!
僕らが行くお店って、せいぜい一杯七百五十円のラーメン屋だもんね。僕はいつもトンコツ。唐揚げつきのランチセットが定番メニュー。
ハッ! あまりにも場違いで、つい自分のホームグラウンドを妄想してた。アウェイ感がハンパない!
反対に蘭さんは堂々としてる。王子様だもんね。こういうとこにはなれてるのか。
「何があるの?」
蘭さんがたずねると、女性スタッフが一礼して、革表紙の豪華なお品書きを持ってきた。正直もう、このあと、どんだけ、ぼったくられるのかなと一瞬、覚悟した。なんか、そんなふんいきだった。
「見ただけじゃよくわからないな。ムチはないの? ムチ。僕にふさわしい攻撃力高くて、見ためもスマートで、できれば全体攻撃できるムチは?」
「ございますよ」
「えッ?」
「えッ?」
思わず、僕と蘭さんの声がそろう。
「あるの?」
「あるの?」
「ございますよ?」
さすがはVIP専用高級クラブ……違った。高級商店だ。