第252話 僕らの何が怪しいの?
文字数 1,633文字
ツウっと服の下を冷や汗が流れおちる。
どうしよう。戦えば、今のメンバーでも負けるとは思わない。でも、さわぎになると、蘭さんたちのぬけだすときが大変になる。この城のどこかにいるっていう強大な存在をひきよせてしまうかもだし。
僕がムリに笑って見つめていると、兵隊さんはほっぺを赤くして床にひざをついた。そう。ある
人
の前に。「キレイだなぁ。おれ、精霊族って初めて見たよ。こんなにキレイなんだな!」
バランか……そうか。さっきから注視されてたのは、バランのせいだったのか!
たしかにね。バランは職神さまからもらったツボのおかげで、神獣クィーンハピネスというのになった。
もともとキレイな白薔薇の精だったんだけど、やっぱり精霊族の女神なだけはあるね。
クィーンハピネスをマスターしたバランは、蘭さんやワレスさんに負けず劣らずビューティフル。背中に半透明のキラキラした蝶の羽なんか生えて、もう美しいのなんの。
イラストでお見せできないのが申しわけない。白銀の髪の美女! バランって女の子だったのか? 薔薇の精だから、男でも女でもないのか。むしろ、どっちでもある?
「あはは。これは、平原に住む薔薇の精だよ。うちのぽよぽよのご主人さまなんだ」
「キレイだなぁ……握手してほしいなぁ」
「ご、ごめんねぇ。精霊族はプライドが高いから、知らない人とはしゃべってくれないんだ」
バランはくぽちゃんを乗りこなして、猫車のなかへ入っていった。かわりにケロちゃんが出てくる。
「なんだ。カエルか」
「ケロケロ!」
「ああっ、ケロちゃん。石化舌はダメ。ペロンってしたらダメ。じゃあ、僕ら、これで」
「ああ、気をつけて行くんだぞ」
はぁ……助かった。
でも、これでわかった。やっぱり、オーク族以外が歩いてると、すごく目立つんだ。
うーん。これは、蘭さんたちはアンドーくんにつれてってもらうのが安全かな。
なんとか城門を見つけて外へ出た!
城の外は平原との境まで森になってる。大木のかげに隠れたワレスさんたちの隊まで、僕らは一目散に走っていく。
「アンドーくんはいますか?」
「さっき、クルウたちの隊を迎えに行った」
「うう。アンドーくん、隠れ身は便利だけど、一定時間で効果が切れるんですよね。そのあと、数時間は使えなくなるし」
「もう一人、同じ技が使えればいいんだがな」
「暗殺者の技のはずなんですが」
「暗殺者はトドメだろ? ほかの特技はない」
「ですよね」
「この前、名人墓場で集めた魂のなかに、大暗殺者というのがあった。あれじゃないか?」
「ああ、その職業のツボ。僕らも持ってます。そうか。アレか。暗殺者の上級職だったんだ」
「しかし、今の事態にすぐは対処できないだろうな。転職しても特技をおぼえるまでに時間がかかる。アンドーが三往復できれば何よりなんだが」
「僕、ようす見てきます。ぽよちゃん、来て」
「キュイ!」
「ゆらー!」
ぽよちゃんとたまりんがついてきた。猫車をそこに残し、僕はもと来た道を走る。門番にはウロつく子ブタと思われてるんじゃないだろうか?
城門の守りはそれほど厳重じゃない。まあ、この島で魔王軍の城を襲ってくる外敵なんていないだろうしね。
僕らの目的はあくまでゴドバだ。ゴドバと人間を魔改造する研究所さえ壊滅させれば、オーク城はどうでもいい。
「あれ? 坊主、どうしたんだ?」
「ちょっと忘れ物して」
「そうか?」
「はい。じゃ、通りますよ」
階段のところまで戻ると、ちょうど、クルウたちと出発しようとしているアンドーくんに出会った。アンドーくん自身は見えない。けど、クルウの馬車が半分、消えかけてる。
「アンドーくん! 姿は見えないけど、アンドーくん」
「あはは。ここにおるよ」
「もう一回、往復して、蘭さんたちもつれだせる?」
「うーん。そうはムリだと思うわ。あと二十分ももたんけん。往復して、ここに戻ってきたら、切れる感じ?」
「そっか」
ということは、なんとしても、僕らの馬車はこのまま城内を通過しないといけないのか。