第209話 バーサーカーはコリゴリ

文字数 1,501文字



 思わぬときに人間の声。僕は一瞬、新たなオバケかと思った。

「ギャー! 出たー!」
「オバケじゃないよ」

 ふりむくと、ああッ! ラフランスさんだ。

「なんで? あっちの馬車に乗ってたんじゃないの?」
「あんな人間だらけの馬車のなかにいたら、じんましん出るだろ。だから、こっちで昼寝してたの」
「そ、そうなんだ」

 助かった! 神様、仏様、人間嫌いさま!

「もしかして、全滅しかけてるの?」
「バーサーカーのせいで自滅してる」
「しょうがないなぁ。なか入ってろよ」
「はい。すいません」

 僕はぽよちゃんをかかえて猫車に入った。後衛援護はできるんで、虹のオーロラでぽよちゃんを蘇生アーンド、火の玉の憑依をとく。あとは、みんな元気いっぱいだ。

「ネコりんたち、かわりに外で戦ってくれる?」
「ニャ〜」
「ニャ〜」
「ニャ〜」

 トイとラブとタイガが外へ出た。でも、その必要はなかったね。

「まったく。魔法使いに前衛任すなんて、ダメなリーダーだなぁ」
「いや、ふだんはこうじゃないから。バーサーカーのせいだから」
「初めて行く場所で、そんな職業につくのがダメだよ」
「はい。ごもっとも」

 ブツブツ言ってたラフランスさんが、次の瞬間、とうとつに叫んだ。

「なんだこりゃー! MPがMPが爆あがりィー!」
「あっ、僕が増やしたやつね」
「ち、知力も一万超えてる……」
「だから、僕が増やしたから」
「どうやって? あんた何者? まあいいや。これで強力な魔法がMP気にせず使いほうだいに……」

 あっ、なんかウットリしてる。

「夢の魔法生活だー! 雷神の怒りー!」

 ワレスさんほどじゃないけど、けっこうスゴイのが来た。ドドンとパシーンと一瞬あたりが青白く染まり、モンスターたちは消しとぶ。


 チャラララッチャッチャ〜!
 戦闘に勝利した。経験値1250、400円手に入れた。
 動く死体は宝箱を落とした。ボロ布を手に入れた。
 市松人形は宝箱を落とした。お札を手に入れた。
 さまよえる魂は遊び人の魂を落とした。


「遊び人? さまよえる魂って、遊び人の魂なのかな?」
「そんなのどうでもいいよ。もっともっとドンパチやろう! ネコたち、行くぞ!」
「ミャッ」
「ミー!」

 おかげで、そのあと、ラフランスさんがほぼ一人で戦ってくれた。たまにのっとられて封じられても、魔法って呪文ごとに封印なので、別の魔法を使えばなんの問題もない。
 はぁ。MPあげといてよかった。善行は人のためならず! かーくんのため!

 バーサーカーはもうコリゴリだ。予想以上に戦えない。これ、たぶん八割がた味方を襲う判定になってる。しかも幸運数値関係ないね。完全にランダムだ。

「ぽよちゃん。バーサーカー、怖いね」
「キュイー」

 三十分もして、ようやく、前方にぼんやり明かりが見えた。カンテラ……だよね? 火の玉じゃないよね?

 ゆらゆら〜

「ギャー! 火の玉だったー!」
「ゆらり!」
「イテテ……」

 たまりんだった。
 猛や蘭さんたちもいる。
 馬車だ。

「かーくん。ダメだろ。離れるなよ」
「かーくん。大丈夫でしたか? ふりかえったらいないから、おどろきましたよ」

 うん。仲間っていいなぁ。
 みんなに感謝。

「それにしても深い洞くつだねぇ」
「黄泉の国に続いているというウワサだよ」

 わッ。ビックリした。急に怖いこと言うから誰かと思ったら、タツロウか。

「この洞くつは、この世とあの世をつないでいるのだという言い伝えなんだ」

 この世とあの世を……そして行きつく果ては墓場……。

 前方がうっすらと明るくなってきた。昼間の陽光というよりは、ほのかな月明かりみたいな。変だな。まだ昼間のはずなんだけど。
 やっぱり、あの世なのかな?
 ついに、墓場か。
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