第59話 あれ? 停止してない?

文字数 1,641文字



 チャラララッチャラ〜
 ギガゴーレムは倒れた。
 戦闘に勝利した。経験値99999を手に入れた。
 かーくんはレベルアップした。ミニコはレベルアップした。ぽよちゃんはレベルアップした。たまりんはレベルアップした。シルバンはレベルアップした。
 ギガゴーレムは宝箱を落とした。


「パカっ」

 あっ、思わず言っちゃった。
 このパカって音が好きなんだよぉー。


 宝箱には巨大すぎる歯車が入っていた。巨大すぎる歯車を手に入れた。

「……ほんとに巨大すぎる」

 歯車一枚なのに、少なくとも畳三枚ぶんはある。こんなデカい歯車、なんに使えと?

「ミ〜」

 あっ、ミニコがかじりだした。嬉しそうだ。
 そうか。またミニコ用の種だったか。

「よかった。これでギガゴーレムを止められましたね」

 僕はじゃっかんドヤって気持ちで、ホムラ先生を見た。けど、先生の顔はくもってる。

「まだだ。見なさい。ギガゴーレムが最終兵器をくりだすぞ」
「えっ?」
「ギガゴーレムは戦闘で負けると、停止前に必ず猛毒ガスを発射するんだ」
「ええーッ!」

 なんでそんな大事なこと、戦闘前に言っといてくれなかったんだー?

 すると、パカリとギガゴーレムのお腹があいた。ガッハッハと笑いながら、ゴドバが出てくる。

「ふん。役に立たん鉄クズめが。デカいだけの人形ではないか。まあいい。最後にこの街の人間どもを皆殺しにするがいい!」

 ゴドバはあたりを見おろして、僕に気づいた。

「ほほう。勇者を毒殺できるとはラッキーよのう。猛毒のなかで苦しみもだえながら死ぬがいい」

 うーん。やっぱり、僕のことを勇者だと思ってるよね?
 ハッ! のんびりしてる場合じゃない。あたりの住民は避難してるとは言え、僕らも逃げださないと、ほんとに死んじゃうぞ。戦闘以外で戦闘不能になった人って、教会のお祈りでは生き返らないんだよ。

 すると、そのときだ。
 コックピットの真上から、スルッと人影がおりた。うわぁ。金髪ってズルイ。風になびいてカッコイイのなんの。

 ワレスさんだね。
 ゴドバの背後にすべるように飛びおり、抜き身の剣をふりおろす。なみの相手なら、そのままスカッと首を切りおとされてただろう。

 でも、ゴドバは武闘派だった。ムキムキの筋肉はムダじゃないらしい。剣の刃先が首すじにあたる寸前、何かを感じたように、スッとよこにかわした。それでも刃はゴドバの肩に深々と刺さる。

「ギィヤアアアアアアーッ!」

 ゴドバの片腕がゴトリと落下する。ゴドバは雄叫びをあげ、宙に浮かんだ。羽だ。コウモリみたいな羽が生えて、そのままどこかへ飛びさっていった。

「くそッ。逃したか」

 ヒラリと、ワレスさんが地面にとびおりてくる。重力を感じさせない軽やかさ。

「おれはヤツを追う。おまえたちも逃げろ!」

 ああっ、ワレスさんは行ってしまった。どうやって追うのかと思ったら、なんか体が浮いてる。風の魔法をあやつってるんだろう。

「わあっ、みんな、逃げてー! てか、僕も逃げる!」
「キュイー!」
「ゆらり!」

 あわてふためく僕らのなかで、ホムラ先生だけがニヤニヤ笑ってるんだよな。やっぱり、悪魔だから?

「あっ、兄ちゃん!」

 アジがギガゴーレムにむかって走っていこうとする。僕はあわててひきとめた。

「アジ。ダメだ。猛毒が出てくる!」
「でも、あそこに兄ちゃんが!」

 三村くんはコックピットに乗りこんで、ギガゴーレムを停止させようとしているようだ。でも、無情にギガゴーレムの警告が響く。

「まもなく当機は猛毒ガスを発出します。猛毒ガス、発出十秒前」

 ま、まにあわない。
 あっ、そうか。転移魔法を使えば——

 そのとき、僕は恐ろしいものを見た。
 この地区の人たちはみんな逃げたんじゃなかったのか?
 子どもが街路で泣いてる。あれは、この前の双子じゃないか。男の子と女の子。手をつないで泣きじゃくってる。

「アーベル? アガーテ?」

 くるりとふりかえる子どもたちが、泣きながら瓦礫(がれき)を指さす。
 た、大変だ。カロリーネさんが瓦礫の下敷きになってる。助けないと!
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