第130話 中堅、ぽよちゃん
文字数 1,449文字
素早さは断然、ぽよちゃんが早いようだ。重騎士が立ちつくす前で、ぽよちゃんは、はねた。広い会場のなかで、ピョコピョコピョンピョンと、とびはねるウサギ。可愛いじゃないか。
「ははは。なんだ、アレ」
「おいおい。中堅がぽよぽよだぜ?」
「かーくんパーティー、強いのは先鋒だけなんじゃないか?」
「一人だけ強くたってねぇ。武闘大会じゃパーティー全体の総合力ってのが、けっきょく大事なんだからよぉ」
ああ、観客たちが好き勝手なこと言ってる。
ぽよちゃんはただのぽよぽよじゃないぞ。平原の王。ぽよぽよのなかのぽよぽよだ。
「ぽよちゃん、ヤジなんか気にするな! がんばれ!」
「キュイ!」
「クピピコピー!」
あっ、クピピコもやる気だ。乗ってるだけだけど。
ぽよちゃんは、さらにはねた。だいぶ素早さに差があるね。まあ、そうか。重騎士はたいてい、あんまり素早くない。
さて、次はどうするのかな?
ぽよちゃん、僕に言われたことを思いだしたようだ。
「キュイキュイキュ〜」
弱点つけるよ〜と呪文を唱えたらしい。そのあと、ためるだ。
よしよし。賢いぞ。
これで、ぽよちゃんは四回行動した。でも、そこで動きが止まる。
ということは、重騎士の素早さは200ていどか。ぽよちゃんは流星の腕輪で素早さ二倍になってるから、約800。
重騎士のわりに、アイツ、早い。つまり、高レベルで全体の数値が高いってことだ。
重騎士の番だ。
素早さ数値の差から言って、相手は一回しか動けない。単純に攻撃してくると思ったら、男は叫んだ。
「鉄壁!」
そうきたか。
騎士は戦士系の職業だ。基本的に魔法はおぼえない。ただし、重騎士の技の鉄壁は、自分の防御力を10%あげた上で、仲間にくわわる敵の攻撃を一身に受けるのだ。仲間がいない一対一の対戦なら、実情、MP消費なしで自分の防御力をあげることになる。
「兄ちゃん。あいつの防御力、どれくらいかな?」
「重騎士は体力の伸びがとにかくいいからな。就業中のボーナス補正もつく。レベルにもよるが、性能のいいよろいを着てたら、700は超えてるかな」
「700かぁ」
鉄壁をかけたから、じっさいには10%増しで800近く、またはそれ以上になってるってことだ。
ぽよちゃんの攻撃力300では、二、三十ずつしかダメージあたえられないかも……。
重騎士はHPも高いから、たぶん1000近いはず。一回30ダメとしても三十三回も攻撃しないと……。
つまり、相手の攻撃に耐えながら10ターンは戦わないと勝てない。
ぽよちゃん……心配だ。
防具はいいの着せてあげてるけど、デカイ
重騎士はやっぱり一回しか動かない。早くはない。でも、10ターン戦闘が続くことを自覚してれば、余裕だよね。
ぽよちゃんのHP460弱だ。一撃100以上のダメージを受けたら、5ターンほどで負けてしまう。
僕が言ったとおり、ぽよちゃんが回復にも気をつけてくれればいいんだけど。
ぽよちゃん、わりと大事な2ターンめ。どうする気かな? はねるかな? ためるかな?
いや、違った。かけだして、攻撃だ。重騎士に対して、四連撃!
重騎士の苦手な属性がついてるので、1.3倍ダメージ。それでも、一撃33ダメか! 最初の一撃だけ、ためるの効果で42ダメージ。合計141のHPをけずった。
次のターンも同じ行動するとしたら、ためる効果がないから133。
重騎士が回復アイテムを使わないとしても、倒すのに7ターン……。
ぽよちゃん、危うし。