第85話 エレキテル港へ
文字数 1,646文字
水神さまにお別れ言うまもなく、僕らは魔法でダンジョンを脱出する。スラム街の人たちが井戸のまわりに集まっていたから、なかのボスモンスターを倒したことなどを告げて、すみやかに旅人の帽子をふる。一瞬でエレキテルの街だ。あっ、その前に水神さまの柄杓は返したけどね。
「港は東側ですよね」
「うむ。一般地区と貴族区のちょうどまんなかあたりに位置している。外国船の出入りも多い大きな港だ。エレキテルはこの国の東端の街だからな」と、ホムラ先生が教えてくれた。
僕らは馬車のまま走っていく。とにかく急がないと。外国につれさられてしまったら、行きさきもわからなくなるし、それだけ助けだすのが遅くなる。
ほんとは港でボス戦があると困るから、職業はニートじゃないほうがいいんだけど、転職してるヒマもない。
「やっぱり、こういうとき、スズランがパーティーにいてくれたらいいのにね。とりあえず、ボス戦になる前に転職できるから」
「そうですね。いつでも転職できるのは助かりました。でも、父上のそばに誰か一人はついていてほしいんです。母上も容体がすぐれないし」
「そうだよね」
あっ、そういえば、まだトーマスに会ってなかった。僕らの仲間になってくれるって言ってたのに。
街の風景はとくに変わったところはない。いつもどおりのエレキテル。ギガゴーレムが暴走してたときみたいに、街路がダンジョン化もしてなかった。
「街の人は誰も異変に気づいてないみたいだね」
「ということは、魔物たちはふつうの船員に化けているんでしょうね。子どもたちも荷箱のなかに隠されているのかもしれない」
「そうだね。注意して見ないと」
一般地区から貴族区へつながる道の前を、そのまま東へ走っていくと、ようやく、海が見えてきた。港だ。
視界いっぱいに広がる大海原。カモメが飛ぶのどかな景色。
波止場には帆船がいくつも浮かんでる。
そうか。まだこの世界の船は帆船かぁ。あっ、でも蒸気船が出てるんだっけ。
ところがだ。港のゲートをくぐる直前、蘭さんが言った。
「このさき、ダンジョンになってます」
「えっ? また?」
「またです。でも、港にボスはいないみたい」
「よし。じゃあ、急ごう!」
ザコ戦だけならニートのままでも問題ない。
それより急がないと子どもたちが——
波止場を走る僕らの前に、ああ……たしかに出るね。
チャララララ……。
ミニゴーレム(遠隔操作中)が現れた!
さらわれた子どもが現れた!
ちょっ……待ってよ。
さらわれた子どもがなんで敵側になってんの?
目の前に、小さな子を両手で持ちあげたミニゴーレムがいる。走って移動中だ。
「船につれこもうとしてるんだ!」
「助けましょう!」
それにしてもお腹へったなぁ。朝から何も食べてないし。
いや、そんなこと言ってる場合じゃない。
外のメンバーは僕、蘭さん、バラン、シルバン。つまり、グレートマッドドクター戦のままだ。
「先制攻撃!」
と言ったあと、蘭さんはブラシを出して髪をとき始めた。
「ああッ! ニートの特性からぬけられません! ごめんなさい」
「……いいよ。次のターンから、蘭さん、後衛になってね」
「はい。すいません」
もう、早くニート祭り終わりたい。
僕はここでも孤軍奮闘だ。
パタパタ素早さあげて、待機行動のせいで動けなくなってるミニゴーレムから、子どもをとりあげる。
そして、ミニゴーレムの背後にまわると、起動用のスイッチを押した。こういうボタンはオンオフ切りかえできるはず。
チャララ〜
ミニゴーレムを倒した。
さらわれた子どもをとりもどした。
「とりあえず、一人、保護したよ」
僕は言ったけど……。
「あっ、いっぱい、ミニゴーレム走ってる」
「まだまだいますね」
「あの船にむかってるね」
波止場の一番遠いところに、ひときわ大きな帆船がいる。トカゲみたいな顔した船員が子どもをかかえたミニゴーレムを次々、船に入れている。
しかも、甲板はなんだかせわしなく、今しも出港の準備をしているようだ。
ま、マズイぃー。
急がないと!