第254話 バレるのか? 勇者

文字数 1,732文字


 魔王軍、オーク城のどまんなか。
 つまり、まわりは敵だらけだ。こんなところで、もしも、蘭さんが人間だと……いや、それどころか、選ばれし勇者だとバレたら、どうなる? 丸焼き? 僕ら、丸焼きかな?

「な、なんでしょう?」

 ふりかえる僕の顔は、さっきより、さらにひきつる。もうほっぺたピクピクしてるのが、自分でもわかるもんね。

 兵隊さんは赤い顔をして言った。

「さっきの精霊にもう一度、会わせてくれんかね? おれたち兵隊だから、いつ戦争にかりだされるかわからんしさ。最後の見おさめしたいんだ」
「…………」

 うーん。どうしたもんか。バランは今ここにいないんだよな。

「えっとぉー」
「さあさあ、見せてくれよ。ひとめでいいんだ。握手してくれとか、パンツ見たいとか言わないから」

 いやいや、おっちゃん。それは言っちゃダメなやつだから。

「うーん……」

 僕がうなってると、兵隊さんはだんだん怒ってきた。

「なんでだよ。いいじゃないか。ちょっとくらい。頼むよ。チラッと。馬車のぞくだけでも」

 のぞかれると困るんだよ!

「ああ、ちょっと、ちょっと、おじさん。精霊さんは気位高いって言ったでしょ? ダメダメ。勝手にのぞいちゃ」
「なんだよ。へるもんじゃなし」
「へるかもしれないでしょ!」

 何がって聞かれると、僕も困る。聞かないでくれ。何がへるとか、聞かないで……。

「何がへるんだよ?」

 聞かれたーッ! もう、これは戦うしかないのか?
 僕はランスやトーマスと目を見かわした。ゴツンとやって、急いで逃げだすんだ!

 と、背後から——

「あれ? 何してんだ? こんなとこで」
「むっ?」

 バサバサと羽音がして、天井から何かが降ってくる。
 ギャー! 黒い悪魔! 背中にコウモリの羽が生えてるよぉー!

「って、兄ちゃんか!」
「おいおい。早く行こうぜ。遅れたら商売にならない」

 さすがは竜人だ。
 ブタさんは猛を見た瞬間、詰所へ走っていった。モンスター界ではドラゴンとか竜人って、上位種族なんだね。

「助かった! 猛」
「ははは。やっぱ、兄ちゃんがいないとな。さ、行くぞ?」
「うん」

 竜人の兄とオークの弟……両親のどっちかが違うにしても、差がありすぎない? 大丈夫?
 まあ、まわりのブタさんたちは竜人をさけてくれるんで、問題なく表門まで行くことができた。

「おっ、坊主、忘れ物はあったか? えっ? 馬車ッ?」
「うん。馬車、忘れてた」
「馬車って忘れるもんかな?」
「忘れてたんだよ!」
「そ、そうか?」
「じゃ、行ってきまーす」
「おう、がんばれ」

 なんとか、無事に乗りきれた。
 城門からは死角になった森のなかまで来ると、ワレスさんや猫車たちが待ってる。

「はぁ。よかった。一時はどうなることかと……」
「かーくん。タケルさん。ありがとう。このご恩は一生、忘れません」

 蘭さんが泣いて喜んでる。
 そんなにイヤだったんだ。ブタっ鼻。

「オーク市民だって、マスターボーナスで力5%あがるのに。僕、オーク貴族もなっちゃおっかなぁ」
「ふっ。かーくんは気楽でいいですね」

 蘭さん、それ、かーくんならブタっ鼻でも支障ないよって言ってるようなもんだからね?

 それに、あれほどマスターボーナスを集めてるワレスさんが、この話題に食いついてこない。百回戦っただけでマスターできたから、就労速度は、かなり早いほうなんだけど。おれもなろうとは口が裂けても言いたくないんだね。

「さあ、古城へ行くぞ」と言うワレスさんに、僕は提案した。

「今から行くと、お城につくころには日が暮れてます。夜は魔物のほうが活発だから、さけたほうがいいんじゃないですか?」
「それはそうだが、休める場所がないだろ? 森のなかで見つかるくらいなら、やつらの根城を急襲したい」

「ノームの村へ行きましょう! あそこで休ませてもらえるし、それに僕は早くナッツに会いたい」

「ノームか。おれたちを受け入れてくれるかな?」
「ノームは気のいい連中です。親切だし、それに金貨や宝石が大好きです。僕が

をたっぷり渡せば、喜んで迎えてくれます」
「なるほど」

 ノーム村から古城までは近い。今日の疲れをいやしてから再出発するには最適の場所だ。

「よし。では、ノーム村をめざそうか」

 とにかく、やっと、ブタさんのお城脱出だ!
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