第221話 夢の巫女は誰だ?

文字数 1,487文字


「やめろ! 兄上!」

 あわやというところで、タツロウがとびかかった。兄弟はもみあい、やがてナイフが地面に落ちる。

「お待たせ!」

 やっと僕らもたどりついた。セイラのまわりを急いで守る。これでもう安心だ。

 ヨウタはタツロウに押さえつけられて、無念の声をあげた。ほんの数分、組みあっただけなのに、ヨウタは呼吸を荒げている。体が弱いのはほんとみたいだ。

「よかった。なんとか、とりおさえられましたね。タツロウさん」
「うん。そうだね」

 けれど、タツロウの顔つきは浮かない。
 お姫様を何度も誘拐して、殺そうとした。今度は王様も温情ですますことはできないだろう。王宮へ帰れば、ヨウタはなんらかの処分を受けるに違いないからだ。

「さあ、じゃあ、もう出ましょう。ここは危険です」と、蘭さんが言うので、みんながうなずく。

「悪いが将軍家のご令息は縛らせてもらう。あばれられちゃ困るからな」

 今度は猛が言って、どこからかロープをとりだした。なんでそんなもの持ってるんだ。まあ、助かるんだけど。

 でも、そのときだ。
 縛りあげるために、いったん、タツロウが兄を離し、立たせようとした瞬間、ヨウタがかけだした。つきとばされた蘭さんが扉に激突する。

「いたた……」
「大丈夫? ロラン」
「早く、そいつを縛ってくださいよ」

 ところが、なぜか、そのとき、巨大な扉がひらいた。全開ではない。ほんの数十センチだけ、まるでこっちのようすをうかがうようにひらく。

 そのすきまから突風が巻きおこり、扉のむこうへと、僕らを吸いこもうとする。

「危ない! みんな、伏せろ!」

 叫びながら、タツロウはセイラを抱きしめる。僕らもそれぞれ、馬車や岩にしがみついた。

「あッ! 蘭さんが!」

 蘭さんのしがみついていた小さな岩が風でころがる。扉のなかへ、蘭さんが吸いこまれそうだ。僕は急いで手を伸ばした。蘭さんの手をつかむ。すると今度は二人ともころがされそうになった。

「かーくん! 蘭!」

 猛が僕の手をつかむ。僕らは数珠つなぎだ。蘭さんなんか足が浮いてるよ。猛の重みで、なんとか保ってる感じ。

 ひときわ風が強まったそのとき——

「あッ!」
「兄上!」
「わああーッ!」

 ヨウタは風に巻きあげられて、扉の内の暗闇に飲みこまれていった。その直後、パタンと扉は閉じた。

「いったい、なぜ……」
「巫女じゃないとあけられないんじゃないのか?」
「はぁ。おべた(おどろいた)わぁ」

 それぞれに驚愕の声をあげるなか、セイラの顔つきがこわばってる。

「……もしかしたら、ボクが祈ったからかも?」
「えーと、でも、セイラ姫は巫女じゃないんだよね?」
「…………」

 ああっ、なつかない猫!
 やっぱり答えてくれない。

 かわりにタツロウが、
「でも、セイラは巫女じゃないんだよね?」
 たずねると、素直にうなずく。

「うん。でも、ボクの姉上が巫女なんだって」
「えっ? セイラ、一人娘だよね?」
「姉上は生まれてすぐに養女に出されたんだ。巫女だってことが魔物にバレるといけないから、ナイショで民間人として育てるために」

 な、なんですと?

「そうなんだ! じゃあ、お姉さんは今どこにいるの?」
「…………」

 ああっ、やっぱり僕には話してくれない……。

 またまたタツロウが代弁してくれる。

「セイラ。どうなの? お姉さんはどこにいるの?」
「わかんない。たぶん、父上しか知らないんじゃないの?」

 うーん。そうか。
 でも、これで、夢の巫女がヒノクニの王女だってことはわかった。
 僕はなんとなく、その人物が誰なのか知ってるような気がしたけど、そこは話の流れだ。気づかないふりをした。ストーリー展開は大事だからね!
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