第47話 ミニ(コ)カーレース

文字数 1,442文字



「行くぞ! おれについてこい!」

 ああ、いつも冷静なワレスさんが熱くなってる。
 この人、プライドが天上天下唯我独尊(てんじょうてんげゆいがどくそん)だから。
 蘭さんにバカにされたのが、よっぽどシャクにさわったんだな。
 三村くんを助けに来たはずなのに、なんか趣旨が違ってきてる。

 二又のわかれ道のすぐさきに階段があった。二階へあがっていく。
 山賊、海賊、大盗賊の見張りがいた。けど——


 チャチャチャン、チャチャチャン、チャチャチャ……。

「ジャマだ。どけ!」

 素早さの一番高いワレスさんが、剣をぬいた、と思ったら終わってた。


 チャララララン。
 戦闘に勝利した。宝箱——


「ああっ、待ってぇー! まだ宝箱が」
「ひろわなかった宝箱のなかみは自動でバックに入ってる」
「えっ? そうなんですか?」

 知らなかったなぁ。
 にしても、テロップを置き去りにする僕ら……。

 階段をあがると、通路がまっすぐ続いてる。左右にたまに丸い部屋。でも、ここってドロップ以外の宝箱、設置してないんだよねぇ。つまんないよ。
 って言っても、宝箱あけてる時間はないんだけどさ。
 ひたすら走るゥー。
 速いよ。ワレスさん。ついてくのがやっと。


 チャララ……。
「剣の舞!」
 戦闘に勝利——

 チャラ……。
「プチストーム!」
 戦闘に——

 チャ……。
「ファイアーブレス!」
 戦——


 今、ワレスさんが火を吐いた?
 とにかく、異常な速さで戦闘が終わる。戦闘っていうより、ただの百メートル走だ。

「ちょ、ちょっと待ってください……」
「いいから走れ!」
「ふひぃー」

 二階、三階、四階……。
 もうダメー! 倒れるよ。
 と思ったら、ミニコの目がピカピカと光った。

 ん? も、もしかして、ミニコ変身? いや、ロボットだから変形?

「ミミー、ミー!」

 ミニコの腕が伸び、変形……変……いや、違った。ふつうに僕を両手で頭の上に持ちあげた。そのまま走るんだけど、速い。

「ミニコ、大丈夫? 僕、重くない?」
「ミ〜」

 平気みたいだ。
 数値、爆あがりしたんだもんな。僕の体重くらいヘッチャラか。
 ん? ということは、力五万になった蘭さんは指二本で僕をつまむことが……?

 アジトの構造は単純だ。二階以降は直線通路、階段、次の階で折り返して、また直線通路、階段のくりかえし。

 やっと八階へ通じる階段をあがりきった。
 さすがに蘭さんたちはまだだろう。だって、こっちは最短距離で来たよ?

「…………」
「…………」

 大きな扉が見える廊下の端と端で、僕らと蘭さんは鉢合わせした。一瞬見つめあったのち、同時にかけだす。(ワレスさんが。僕はミニコに運ばれたまま)

 足の速さは、ワレスさんのほうがちょっと上かな?
 でも、階段からの距離は、蘭さんが近い。どうも近道は右側だったようだ。

「ついたー!」
「いや、おれのほうが速かった」
「僕ですよ!」
「いや、おれだ」
「ボスは僕が倒します!」
「させるか!」

 あーあ。二人で同時に扉のなかへとびこんでいく。
 おかげで、どうも僕らは二つのパーティーとして認識されたようだ。

 扉のなかは岩窟(がんくつ)の教会風の広い空間だ。
 ああ、でもイヤな予感。
 天井の一部に丸く穴があいてる。その真下にギガゴーレムが置かれてるんだよね。

 ギガゴーレムの手前に盗賊団が集まってる。
 侵入者を警戒してというより、もともと、ここが盗賊たちの寝ぐらなんだろう。床にころがって寝ぼけた顔してる。

「うーん。五十人はいるかな」

 ほんと、なんで今回、こんなに集団戦が多いんだろう?

 ジャラーン、ジャラーン。
 ああ、ボス戦の音楽だ。
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