第２１０話　名人墓場到着……

　ほのかな明かりのもとへ進むと、そこは墓場だった。
　どこからどう見ても、りっぱな墓場！　キングオブ墓場！
　これ以上、不気味なふんいきに満ち満ちた墓所がほかにあるだろうか？　ない。ないよ！

「こ、怖い……ぽよちゃん」
「キュイ……」

　そこは海岸というよりは谷間だ。両側はだんだん畑のようになった岩場に墓石がたちならび、くずれかけたのや、くずれたのや、コケむしたのがわんさか。その周囲を人魂が無数にとびかい、ゾンビっぽいものまで顔を出している。
　しかも、その岩場にどこからか聞こえる潮騒が反響して、なんとも、おどろおどろしい。

　もう帰ろうよと僕は言いたくなった。洞くつのなかで戦うたびに、モンスターが必ず魂を落とすんで、すでにけっこうな数が集まってる。

　さまよえる魂っていうのは、一見どれも同じに見えるけど、戦闘勝利したときに落とす職業が違う。どうも彼らの生前の職業のようだ。

　洞くつのなかはほとんどが基本職だった。まれに、あんまり聞かない個人職もあった。羊飼い一つと、絵師が一つと、水竜、スライム一つずつだ。モンスターの魂もここに集まってるらしい。

　魔法使いや詩人や遊び人なんかの、これまで抽選会では手に入らなかった基本職が十個ずつはあるから、もう充分なんだけど。

　でも、僕らはそのために来たわけじゃないんだよな。

「ここまでに、スリーピングはいなかったよね？」
「いなかったですね」と、蘭さんはうなずく。

　一本道だから、いたら必ず見つけたはずだ。いないってことは、もっと奥まで行ったんだろうなぁ……。

「なんだよ。かーくんはいつまでたっても怖がりだなぁ。兄ちゃんがいるから心配するな」
「さっき、いなかったじゃん！」
「それは、かーくんが勝手に、はぐれたんだろ？」
「猛の薄情者ぉー」

　僕らのほのぼの会話に業を煮やしたように、タツロウが前方を示す。

「このさきに王墓がある。さあ、行こう」

　王墓……王家の谷……。
　呪われた響き。

「王墓に行くと何かあるんですか？」
「伝説だが、王家のかたがたが前に立つと、ひらく扉があるらしい」

　うーん。それは、アレだ。
　シルキー城にもあった。ボイクド城にもそれっぽい扉がある。魔王城クラスの強い敵がなかにいる、封印されたダンジョン。

　それが、この国にもあるのか。

「スリーピングは、だから、セイラ姫をさらったのかな？」
「そうではないかと思う」

　殺すだけなら、その場でできたはずだ。さらったのには、ほかに理由があるからだ。
　それにしても、ただの暗殺者にすぎないスリーピングが、なぜ、そのゲートをあけようとするんだろう？
　それとも、タツロウの兄のヨウタが、なんらかの目的でそこを開放したいのか？

「えーと、その扉をあけると王になれるとか、そんな言い伝えでもあるの？」
「王になれるとは聞かないが、言い伝えはある」
「あるんだ」
「四の国の眠りをさます者は、魔の王の力を継ぐなり、だったかな」
「ふうん」

　魔王の力を継ぐってこと？
　やだなぁ。

　なんか、大昔、世界は四つの国でできてて、それぞれの王が統治していた。一つは魔の王、一つは精霊の王、古の王、一つは人の王が。
　で、その四つの国への門が、今も各地に残ってる。
　って、前にゴドバのいた謎の空間の廃城の本で読んだんだけどな。そのゲートをひらくことができるのは、三人の巫女だって。

　この墓場の門がその一つだとしたら、それはほんとに今、ひらいてもいいものなのかな？
　まだ早い……そんな気がする。なにしろ、巫女も一人しか見つかってないし。