第243話 ついたよ。幻の島
文字数 1,816文字
その空間をただよっていたのは三十分くらいだったろうか?
以前、僕がヤツらに捕まったときは、一昼夜くらい馬車で旅したような気がするけど、魔法だから、そこのとこは乗り物などの条件で違ってくるのかも。
ボヤボヤのグニョグニョをぬけると、そこは——
ザザン、ザザンと波の音。
うーん? 前と違う場所についたぞ? 変だな。
前のときは、すぐそばに廃墟の城があって、牢屋のなかへ入れられてしまったんだけど。
「ここは、港?」
「そうみたいだな」
でも、あの島だということはわかった。見覚えのある滝が目の前に広がってる。
「ああ、前に飛びおりたあの滝だぁ」
「かーくん。あのときは兄ちゃんが助けてやったからよかったようなものの、ふつうに死ぬからな?」
「えへへ。ごめん。ごめん」
それにしても、滝。ってことは、絶壁の下だ。上陸するような陸地がない。
「港って言うには変な場所だなぁ」
「まだ船、動いてるな」
「あっ、ほんとだ。なんか、滝にむかってない?」
「向かってる」
これは……いつものイヤな予感だ。なってほしくないなってことは、たいてい、そのとおりになる。
ほらほら。吸いよせられてるよ? 船はだんだん滝のほうへ……。
「ギャー! 沈む! 船が沈む!」
「沈むと困るなぁ。兄ちゃん、羽あるけど、助けられるのは、せいぜい、かーくんと蘭くらいだ」
船が滝に向かってるのはもう間違いない。スイスイ進む。
もうダメだー!
が、滝にぶつかった瞬間、船はスルリと奥へ。
「ああっ! 滝の裏が川になってる!」
「なってたなぁ。よかった。よかった」
滝の裏は洞くつだ。洞くつのなかに大きく広い川が流れている。しばらく進むと、船着き場にやってきた。川沿いに岸がある。そこに船が何艘か停泊していた。
「兄ちゃん。よこ穴があるよ」
「上向きになってる。階段だ」
「あそこから上にあがれるね」
岸のよこっちょに穴があって、床は階段状になっている。地下に隠された秘密の港って感じだね。
僕らはそれぞれの馬車で船をおりた。馬車はついてくるんだ。よかった。
ところが、そのときだ。船のなかが急にさわがしくなった。まだ、ワレスさんやクルウの隊はおりてないけど、船内で何かあったのかな?
「ギャーギャー言うな! 今すぐ送り帰してやる!」
「ヤダー! こんなにイケメンがそろってるんですよ? わたしだって参加したいです。美形祭り! いいじゃないですか! 見るくらいタダなんだから。サービス。サービス。美形はそれくらいサービスしてくださいよぉー」
「命が危険だと言ってるんだ。おれたちは遊びに来てるわけじゃない!」
「ケチー。ケチー。ワレスさまのドケチー!」
「クソッ。女でなければ、なぐってやるのに」
あはは。猫みたいに首ねっこつかまれて、船からひきずりだされてくるのは、キヨミンさんだ。なんで船になんかいたんだろう?
「あの、パティシエとして雇ったとかじゃないですよね?」
たずねると、ワレスさんは不機嫌そうに答えた。
「密航してたんだよ! 船底に隠れてやがった」
ははは……ワレスさん、お言葉が乱れてます。そういうとこも僕は好きだけど。
「お願い。おねがーい。キヨミン、いっぱい、お菓子焼いて来たんですよぉ。戦えないけど、サポート系の特技はいっぱいあるんで、いっしょにつれてってくださいよぉ」
「足手まといなんだよ」
「ええ? わたし、イケメンがイチャイチャするとこ、ジャマしたりしませんよ? 好きなだけイチャラブしたらいいじゃないですかぁ」
「…………」
ワレスさんは片手でこめかみを押さえた。深呼吸して心を鎮めてる。
「あいかわらず、何語をしゃべってるんだ? まあいい。誰か船を戻すついでに、つれて帰れ」
「キャー! キャー!」
うーん。予想以上の変人だ。ほんと、だまってれば可愛いんだけどなぁ。
「清美さん」
「こっちのわたしは、キヨミンです!」
「キヨミンさん。あなた、夢の巫女ですよね?」
ピタリと黙りこむキヨミンさん。
反対に、ハハハ、フフフと笑いだす周囲の人たち。ワレスさんなんか、めったに見せない極上の笑顔だ。
「そんなわけないだろ? こいつが巫女なら、そのへんの鼻水たらした女児でもつれてきたほうが、まだ信じられる。いかに巫女姫が変わり者とは言え、コイツはありえない」
その声に食いぎみに、キヨミンさん。
「ああー、バレちゃいましたか? てへっ」
やっぱり!
これが夢の巫女か……。