第22話 やっとついた。研究所

文字数 1,667文字



 長い道のり。
 けっこう歩いたよ?
 二キロくらい?
 所持金が百五十億になった。

 僕らは初戦のあと、戦闘メンバーを、ぽよちゃんからバランに交代した。

 バランは身長二十センチていどの薔薇の精だ。
 ただ、小さいモンスターのわりに、すべての数値の伸びがよく、人間と同じ装備を身につけられる。

 その上、ローズクォーツの杖の装備品魔法のおかげで、毎ターン全部のステータスにプラス100されていく。味方を守る特技もあるし、戦闘に参加するだけで最強の壁役だ。

 まあ、あのあとは僕らも鉄クズが出たら、まっさきに倒すようにしたよ?
 だから、そこまで苦戦することもなく、研究所にはついた。

 だけど、草原のまんなかにデンと建つ研究所が見えたとき、蘭さんが急に立ちどまった。

「ちょっと待ってください。あの研究所……」
「どうしたの? ロラン」
「研究所のなかからモンスターの気配がする」

 蘭さんの危険察知か。

「僕の危険察知、ランク2になったんですよね。ダンジョンの匂いがわかるようになりました。あの研究所は間違いなく、ダンジョンです」
「えっ?」
「それも、ボスがいます。研究所の奥に、かなり強いヤツがいる」

 ううッ。やっぱり、そうなるわけね。自分のステをマックスまで、チョチョイとあげちゃう技を使えるスマホは、ある意味、僕の最強の武器だ。そうそうかんたんに充電させてくれないか。

 まあ、それでもスマホの充電量は、まだ28%残ってる。ダンジョン一つの攻略くらいは余裕で持つ。

 ——と、僕は思ってたんだけど、そのときだ。

「ああーッ!」

 び、ビックリした。
 とつぜん、なんだろ? 蘭さんが叫んだ。

「ロラン?」
「ああッ。やっぱりだ! 僕の数値にまたバグが!」

 えっ? ギックン——

 馬車からアンドーくんも出てくる。
 ロランは自分のステータスを空中に浮かぶモニタ画面で確認していた。

「ほら、見てください! 僕のHP288になってる。汽車に乗る前に、ちゃんとチェックしてたんですよ。そのときには266だったんです」

 ああ……。
 やっぱり、いきなり22も増やしたのはマズかったかぁ。今度から気をつけよう。

「前からね。たまに数字が変わってるような気がしてたんです。だから、今回はちゃんと、ここにメモしてたんですよ。ほら、HP266って書いてある。あっ! 体力も10あがってる!」

 メモとってたんだ……。

「ねっ? 変でしょ? これってバグだと思うんです。最初は注意してなかったから、正確にどのくらい上下したのかわからないけど、せっかくレベルアップしても、バグで数値さがっちゃったら意味ないじゃないですか。どうしよう!」

 さがることは……ないよ。
 だって、犯人、僕だから。

 すると、今度はアンドーくんが青くなった。

「じ、じつは、わ(私)も、たまにだけど、数字が違うやな気がしちょった。ミルキー城の地下で、レッドドラゴン戦の前とあとで、モンスターやつのHPが100も変わっちょったけん」

 うん。それもしたねぇ〜

「ああッ、ほんとだ! ぽよちゃんのHPが僕とほとんど変わらない。前は100は差がひらいてたのに!」

 んんー、だって、あのとき蘭さん、そばにいなかったから、上書きできなかったし。

 僕はなるべく二人と目をあわせないようにして言ってみる。

「き、気のせいだよ。それより、研究所に行こうよ?」

 痛い。
 二人の視線が痛いよ。

「……かーくん。なんでこっち見ないんですか?」
「冷や汗かいちょうだない?」

 蘭さんとアンドーくんの声がそろう。

「怪しい……」
「怪しいね」

 そして、蘭さんは言う。
「そういえば、かーくんって、シルキー城から脱出するとき、バグで幸運の項目がないって言ってませんでしたか?」

 言ってましたね!

「なのに、いつのまにか、幸運99998……」

 ああっ、それ以上、追求しないでェー。

「もしかして、かーくんがなんかやってるの?」

 やってるよ?

「やってますよね?」

 やってるよー。

「やってるんですよね?」
「だから、やってるよぉー」
「やっぱり!」

 あっ、しまった。
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