第179話 決勝戦2
文字数 1,562文字
月光のセレナーデは、術者の知力の三倍までの魔法ダメージを吸収してくれる。
たまりん、大学者のマスターボーナスや賢神の就労補正で知力あがってるから、1500近いダメージを消す。
なのに、今、一瞬でそのバリアやぶって、僕に2500のダメージを負わせてくれた。猛のプチサンダー。ちっともプチじゃない!
「猛ゥー! こっちにとばしてくるなよ。痛いよ。これ、ぽよちゃんたちだったら死んでたからね!」
「あっ、すまん。さきに守っとかないといけなかったな。鉄壁!」
ムダに力が強く、頭もいい兄。僕から奪ったタンパク質がそうさせてるに違いない。いつも、僕のオカズとってくんだから。
猛の次の攻撃。
ふつうに通常攻撃だ。アジに必中つけてもらったから試したんだろう。でも、これも反射される。
「必中でもダメか。物理攻撃に魔法攻撃、ブレス攻撃。ひととおりの技を使ったけど、全部ダメだな。とりあえず、副将は倒しとくか」
猛のワンパンで、副将も倒れた。とは言っても、これじゃ、いっこうに勝てる気配がない。残り一人、ゴライだけ。なのに、相手にダメージを与えるすべがない。
「どうするの? 猛」
「こうなったら、使える技を一つずつ試してみるしかないな。もしかしたら、何かが効果あるかもしれないし」
「猛、ガンバレ!」
猛は白い歯を見せて笑いつつ、いろいろ試していった。結果的に言えば、全部ムダだった。
ただ、はねかえってくるダメージは、ほとんど神獣の気がふせいでくれたからいいんだけど。たまに魔法と物理攻撃のつなぎで、こっちに被害が。
「すまん。かーくん。全部の技使ってみたけど、どうにもならない」
「じゃあ、次は僕が試すよ。このさい、小切手を切るでもいいのかな? 卑怯かな?」
「神獣と戦うわけじゃないし、仲間呼び系の技は使っても問題ないだろ」
「そっか。クマりんもやってたね。じゃあ、やってみる。小切手を切る〜」
僕は百円を財布からなげすてた。虚空から傭兵が一人現れる。ペコンとゴライになぐりかかっていくものの、反射されて尻もちついて消えていった。
「やっぱ傭兵呼び系もダメみたい」
「ほかに、かーくんだけが知ってる技は?」
「えーと、なんだろ。ああ、漁師の大波とか、猟師の大岩ころがしとか」
思いだしつつやるんだけど、どれも通用しない。そのたびにガツン、ガツンと神獣の気が守ってくれる。特技は魔法攻撃ではないみたいだ。ちなみに傭兵呼びは、与ダメなかったときは無効判定で、そのあとも動けるみたい。
「どうしよう。僕もやることなくなったよ」
「まいったなぁ」
どうしたらいいんだろう?
甘く見てたなぁ……。
僕らのターンは終わってしまった。ゴライの反撃だ。
彼は叫んだ。
「千手観音!」
あっ、それ来るんだ。
もしかしたら、まず仲間を蘇生させるのかなと思ったけど、反射カウンターがあるかぎり、自分だけは倒れないもんね。一人で戦うつもりなんだ。
次の瞬間、ゴライの腕が千本になった——いや、それは言いすぎか。じっさいには十本くらい?
「アタタタタ、ウワチャー!」
北〇の拳みたいな奇声をあげて襲いかかってくる。十連撃。もちろん、みんな、カンカンカンカンと、神獣の気に弾かれるんだけど。
猛の魔法の反射を何度か受けてるから、直接攻撃ききそうなものだが、そのあと、猛自身の物理攻撃も入ってるから、またバリアが復活してる。
ゴライは無念そうな顔で、自分の定位置に戻っていった。どうやら、今のでゴライの攻撃は終わりだ。
「ゴライ、十回も行動してきたよ?」
「いや、違う。千手観音って技が連撃系なんだ。行動数は一回だよ」
「そうか」
バリア対バリアの戦い——
こっちのバリアには攻略法があるけどね。ゴライが攻撃魔法使えないなら、無敵。
数値は圧倒的にこっちが優位なんだけどなぁ。
これじゃ、勝てないよ。