第31話 ミニコのパン〇

文字数 1,527文字


「わあっ、どうしよう! やられるー!」
「僕の顔がー!」
「わやつ、もう誰も行動できんよね?」

 前衛は全滅だな。
 それでも後衛が残るから、次のターンで蘇生してもらえれば、なんとか……痛いだろうけど。痛いだろうな。痛いよね。

 と、そのとき。

 トコトコトコ。

 ん? ミニコが前に出る。
 ああ、そうか。まだミニコが行動してなかったか。
 でも、ミニコの素早さ数値じゃ、一回しか動けないだろうな。通常攻撃って、なんだろ? それか、全体に攻撃できる技があれば……。

 つかのま、ミニコは考えていた。ミニコ、どうするんだ?

 そうだ! たしか、プログラムに火炎放射ってのがあったぞ。それなら全体攻撃なんじゃないか?
 頼む。ミニコ。火炎放射を出してくれ!
 てか、命令できるかも?

「ミニコ。火炎放射を——」

 ああっ、遅かった!
 僕が命令しようとしたときには、ミニコは行動していた。腕をカチャカチャするあの仕草。きっと、ロケットパンチだ。両手を放つとして二匹。仮に往復それぞれで攻撃できても四匹しか倒せない。

 残る鉄クズは六匹。
 ギリで僕は立ってられるか。
 もうしょうがない。その次のターンでもう一回、傭兵呼びをしよう。

 僕が諦観をもって、そう考えていると。

「ミーミミーミーン!」

 何やらゴーレム語を発しながら、ミニコは自分のお腹をパカリと切りとった。いや、そこに何か仕込まれていたのだ。

 銀色の三角形の物体が、火を吹きながら敵のあいだをとびまわる。

「な、何アレ?」
「ロケットパンツだな」と、おじさん。

 なんですと?

「ロケット?」
「うむ。ロケット」
「パン……チ?」
「ノーノー。パンツ」
「ロケット、パンツ?」
「イェース。ロケットパンツ!」

 ロケットパンツ!

 ジェットエンジン搭載のパンツが空中をとびまわるのを、僕は呆然と見つめた。
 いいんだけどね。鉄クズ、全部落ちたから。

「ミニゴーレムは主人の行動を模倣するように造られている。主人が全体攻撃をすれば全体攻撃を。単体攻撃なら単体攻撃を。回復や補助魔法なら、仲間を守る行動を。どうだね? 便利だろう?」

 なんで、おじさんが自慢するんだ?

 そのあと、ものすごい回数の効果音が響きわたって、僕らはレベルアップしまくった。だって、五十万経験値だからね。

 宝箱だって一万個だ。こんなに歯車ばっかりいらないよー。

「あーあ。この歯車、どうしよう? 店に売っても大した金額にならないだろうし、使い道がないよね」

 すてていったらダメだろうか?

 すると、またおじさんが、
「何を言っているのかね? 歯車を使って、ミニゴーレムを強化すればいいではないか」
「えっ? 歯車で? どうやって? 僕、改造なんてできませんよ?」
「食べさせなさい」
「食べさせる?」
「イェース。イッツ、イート」

 くどいおじさんだ。
 でも研究所にいたんだから、研究員かもしれない。頭はよさげだし。

 言われたとおり、ミニコに歯車をさしだしてみた。
 なんと、ミニコはおせんべみたいに歯車をポリポリかじる。ミニコの素早さが1あがった。

 そっか。これって、そういうアイテムだったのか。
 ミニゴーレム専用、ステータスの種だ。ただし、ほんとの種と違って、伸びるステータスはランダム。しかも必ず1しか増えない。
 でもね、歯車は一万個もあるから……。

 レベルも19上昇。歯車を使ったミニコは、こうだ。

 レベル31
 HP2690『2500』、MP125『125』、力1602『1500』、体力2130『2000』、知力1287『1250』、素早さ635『620』、器用さ635『620』、幸運1441『1385』

 二重かぎカッコのなかは歯車であがった数値ね。
 あっというまに、ミニコは僕のステ超えちゃったよ。
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