第37話 やっぱり、三村くん……?

文字数 1,640文字



 ジャラーン、ジャラーン!

 イヤな曲調だ。
 特定のボスのときにだけ鳴る戦闘音楽。

 僕たちは馬車をひきつれて、両側にズラリとならぶミニゴーレムのあいだを走りぬける。

「シャケー!」

 叫んだのは、蘭さんだ。
 蘭さんは見ため絶世の美女だけど、性格は勇ましい。どんな事情があれ、仲間が悪事を働いているなんて、ゆるすことができないのだろう。
 スゴイ勢いで走ってく。

 またたくまに、盗賊たちの前に来た。
 マントのリーダーがあわてている。
 蘭さんは呼びかけることをやめない。

「シャケ! シャケなんだろ? なんで盗みなんてするんだ? わけがあるなら話してください」

 蘭さんのムチが舞う。
 お見事。リーダーの覆面をパシンと叩きおとす。

 思ったとおりだ。
 認めたくなかったけど、覆面の下から現れたその顔は……。

「シャケ。やっぱり君だったんだね」
「シャケ……」

 僕らの視線をあびて、三村くんは一瞬、顔をゆがめた。まるで泣きそうな表情だ。

「シャケ。なんのためにこんなことをしてるの? かーくんのお金を三千億盗んだのも、あなたなんでしょ?」

 答えはない。

「シャケ。わけを話してください! あなたはなんの理由もなく、罪を犯す人じゃない。困ってるなら僕らに相談してください!」
「……ロラン」

 よし。僕も説得しないと。

「そうだよ。シャケ。お金のことは怒ってないから。招き猫のガマグチだけは返してほしいけど、お金はもういいからさ。ちゃんと僕らに事情を説明して。解決できるように力を貸すよ」
「かーくん……」

 三村くんは何か言いたそうだ。話すべきかやめておくべきか、迷っているように見える。

 僕らは声をそろえた。

「シャケ!」
「シャケ」
「シャケー」

 馬車からクマりんもとびだしてくる。

「まー! まーまー、ままー!」

 おおっ、あの無口なクマりんが、こんなにしゃべるなんて。ほんとに三村くんに帰ってきてほしいんだね。

「クマりん……」

 三村くんの心がゆらいでるぞ。手にとるようにわかる。
 もしかして、このまま戦わなくてもいいんじゃない?
 仲間に戻ってきてくれるんじゃ?

 だが、そのときだ。

「おい!」

 ん? 盗賊団のなかに、やけに体のデカイ男がいる。コイツもマントと覆面で顔がわからない。けど、それにしても身長が二メートル半はある。
 なんか、おどすように盗賊の一人の腕をつかんだ。

 あっ、あれは、この前の少年じゃないか。列車強盗のとき、三村くんといっしょに逃げていった。

 とたんに三村くんの顔つきが変わる。青ざめて、かたくなった。低い声でつぶやく。
「やめろ。わかってる。ちゃんとやる」

 おかしいぞ。
 リーダーは三村くんじゃないのか? あの大男のほうがいばってる。

 僕にしか聞こえない小声で、蘭さんがささやく。
「かーくん。アイツです。僕が感じてた、ものすごく強い相手。あの大男ですよ」

 そうだ。たしかに、僕も感じる。僕には蘭さんみたいな危険察知能力はないけど、なんとなく本能でわかるんだ。

 ものすごい強さだ。これまで戦ったなかで、これに匹敵するくらい強かったのは、ミルキー城の地下にいたレッドドラゴン。あるいは、ヤドリギ……。

 正直、今の僕らに勝てるかどうか自信がない。
 蘭さんの五万攻撃力は通用するだろう。でも、それ以外の数値が心もとない。一撃で相手を倒せるんじゃないかぎり、とんでもない反撃が襲ってくるに違いない。
 そんな相手だ。

 そのあいだにも、三村くんは盗賊たちに命じた。
「おら、急げ! 早くゴーレムを運ぶんだ!」

 いけない。ギガゴーレムのケージが外された。巨大ロボは車つきのカートに載せられている。巨体だけど、十数人で押せば、意外とすんなり動きだす。

「待て! 行かせないぞ!」

 蘭さんが走っていく。
 僕らも急いで追った。
 すると、その前に三村くんが立ちはだかった。サッとマントを外すと、その下には筋力補強アームみたいなものをつけていた。


 ジャラーン、ジャラーン!
 ジャラララーン!

 ああ、やっぱり、始まっちゃうんだね……。
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