第24話 ボコられるの?
文字数 1,961文字
「…………」
「…………」
難しい表情で僕を見つめたまま、何も言わない蘭さんとアンドーくん。
「ご、ごめんよ? だって、みんなのステータスがちょっとでも高いほうが、戦いが有利かなぁって。でも、さげたことはなかったよ? あ、あの、もとに戻すから! いちおう、小説のなかに、いくらずつ数値あげたのか書いてあるから、調べて計算したら、もとに戻すことはできるよ!」
必死にあやまる。
ひらあやまりだー!
もう一生ぶんペコペコしたね。だけど、蘭さんとアンドーくんの顔つきが、いっこうに変わらない。眉間にしわよせちゃってさ。
「かーくん……」
「う、うん?」
「なんでそんな大事なこと、今まで言わなかったんですか?」
「だから、ごめんよぉー。ロラン、怒ると思ったから! 悪気はなかったんだよぉ」
ふっと吐息をつき、蘭さんは両手をひろげて首をふった。
ああ、あきれてる。
「かーくん? そりゃ怒りますよ?」
「だよね! ごめん。戻すよ。戻すから! 計算するから、ちょっと待って」
「そうじゃなくて、なんでそんなスゴイ特技あること、ナイショにしてたんですか? それがわかってたら、仲間の数値をいっきにあげちゃえば、どんな敵相手でも楽勝でしょ?」
えッ? そっち?
「いいの?」
「何が?」
「そんなズルしちゃダメとか、自力で鍛えるとか言わないの?」
「そんなこと言ったら、かーくんの『つまみ食い』だってズルでしょ?」
「そうだけど」
「数値の伸び率は生まれつき決まってるから、どうしても鍛えられない部分だってあるんです。それが強くできるなら、棚からボタ餅どころか、花嫁つきでウェディングケーキが落ちてくるくらい大ラッキーですよ?」
「…………」
そうだった。蘭さんって意外と合理主義なんだよな。うーん。クールビューティー。
「わかった。つまり、もっと早くに、みんなのステも爆あげしとけばよかったと?」
「そういうことです。さっそく、僕の数値、あげてください。どのくらい、あげられるんですか? 条件とかあるの?」
「さあ。今まではとくに問題なく、かんたんにあげられたけど。あっ、でも、僕が自分の幸運値を99999999……ってしようとしたら、できなかった。たぶん、99999が限界なんだと思う」
「かーくんのほかの数値も同じだけ、あげることできるんですか?」
「ちょっと待って。やってみる」
僕は自分のステータス画面を呼びだす。見たいと思えば自動で目の前に出てくる。
そうだなぁ。とりあえず、風神のブーツのおかげで、素早さは戦闘中にかなりあげられるから、補助魔法でもあげられないステータスがいいかな?
「器用さって、種もないし、戦闘用の補助魔法もないよね?」
「ないですね。バランの薔薇だけじゃないですか? 全ステータスを上昇させる」
「その系統の魔法じゃないとないのかな」
器用さか。
長押しして説明をよく読むと、戦闘中の攻撃回避率に関係してる。数値が高くなれば、ブレスや魔法攻撃もかわせるみたいだ。
へぇ、そうなんだ。今のところ、みんな数値低いから魔法攻撃よけられないだけか。
なんとなく素早さが回避率と直結してるイメージがあるけど、素早さは攻撃のまわってくる順番と、ターン内の攻撃回数にしか影響しないようだ。
ということは、器用さをめちゃくちゃあげれば、敵からの攻撃をほとんどかわせるってことか。
それって、仲間の受けるはずの攻撃を代わりに受ける『守る』を使ったときにもさけられる? ということは実質パーティーのダメージ0で敵のターンをやりすごせるのか。それはいいね。
よし。器用さをあげてみよう。
僕の今の器用さ286だ。
これをいっきに99999に——と思ったんだけど、うーん。ダメだ。スマホの画面で286を消して、99999と打とうとすると、エラーですって表示が出る。
「ああ、たぶん、小説を書くの特技であげられる数値には上限があるんだ」
試しに286を287にすると、これは行けた。288も行けた。ところが289にしようとすると、とたんに打てなくなる。
「わかったよ。幸運値99998とプラス2まで打てる。ということは、一人のステータスで書きこめる上限はプラス100000までなんだと思う」
2だけあげても効果低いんで、器用さは286に戻しておいた。
「十万ですか。一種類のステータスをマックスにして、さらにほかのステータスをプラス1まではできるってことですね。うーん。均等に全数値をあげるべきか、どれか一つを徹底的に突出させるか……」
蘭さんは真剣に考えている。
まあね。大事なことだから。
「決めました! 勇者は攻撃のメインであり、仲間を守る盾になることも多い。腕力が強く、倒れないことが重要。なので、攻撃力と体力を五万ずつ伸ばしてもらっていいですか?」
なるほど。そう来たか!