第158話 九十九折り……?
文字数 1,501文字
「わあっ、兄ちゃんたち。もしかして、街に帰れるの? おれ、学者マスターしたよ。一回、街に帰ろうよ」と、アジ。
「そうだねぇ。できれば、アジには弓使いになってもらいたいんだよね。後衛援護ができるから」
「おれ、次はニートになる!」
「あっ、うん。そうだね」
たしかにニート、大ニートの効果は高い。僕も賢者おぼえてしまった。これ、職業習熟度プラス50%の効果だ。
「じゃあ、いったん帰ろうか」
「かーくん。兄ちゃん、大魔法使いの魔法でダンジョンから出られるぞ」
「わ〜い。アイテムいらず〜」
というわけで、僕らは別荘とヤマトの街を魔法で行ったり来たり。職業をマスターすると帰り、また来て次の角まで進む。
造りはずっと同じだ。よこ長の棟が橋で葛折りのようにジグザグに続いている。木竜を倒すとウロコを落とすので、それを橋渡ったとこで丸太の像にくっつけると、その棟まで魔法で来ることができるようになる。
「……それにしても、今、何棟くらい制覇した?」
「十くらいかな?」
「違うよ。十二だよ」と、アジが言う。アジは数字に強いね。
「まだ十二かぁ。これ、どこまで続くのかなぁ?」
「かーくん。葛折りってさ。九十九折りとも書くんだよ。もしかして、ほんとに九十九棟だったりしてな」
「ええーっ?」
九十九なら、まだまだだ。あと八十七棟もある。
「どうしよう。今、四時半か。あと二棟は行けるかなぁ」
「なあ、かーくん」
「何? 兄ちゃん」
猛は必ず角に置かれてる丸太の像を指さす。
「この丸太。ウロコが重なって、だんだん形ができてきてないか?」
「たしかに」
まだ十二枚だけど、ちょっと像らしくなってきた。
「このウロコが全体についたら、たぶん、なんかの形になるんだ。それで考えると、まだ全体の一割ていどしかウロコがないだろ? これ全部集めるのに、あと七、八十枚は必要だ」
「だよね……」
その夜、僕らはけっこう、がんばった。夕食をはさんで夜中十二時前まで通いつめて、なんとかウロコ五十五枚まで集めた。
「残り四十四棟か……」
「かーくん。今日はそろそろ帰ろうぜ。兄ちゃん、眠くなってきたぞ」
「そうだね。ぽよちゃんも寝ちゃってるし、今日はここまでね」
「試合は午後からだし、明日の朝にまた来よう」
「うん」
明日は準決勝、その次が決勝だ。決勝が終わるまでにはセイラ姫を救いださないといけないから、明日の午前中と試合後にがんばれば、なんとか行けるはず。
単調な造りとモンスターだから、こっちもだんだんなれて、後半はペースがあがってきた。明日はもっと早く進める。
おかげで特訓は順調で、僕は賢者、騎士、暗殺者をマスターした。猛は武人、騎士、暗殺者を。たまりんは大学者と大魔法使いを。アジはニート、遊び人、大ニート、僧侶を。
「今日もいっぱいマスターしたねぇ。僕、次は何になろうかなぁ」
持たざる者は何からなれるんだろうか? わかんないなぁ。
「そう言えば、前にたまりんがなってたパリピにもなってみたいんだった」
「ギルドに寄ってから宿に帰ろう。明日の朝、すぐに別荘に行けるように、転職しといたほうがいい」
「そうだね」
アジもやる気満々だ。
「おれ、次は賢者になる。学者と賢者で大学者になれるんだ」
「そうだね。アジにはむいてる」
ギルドのマーダー神殿。
僕たち、白虎の竹林で鍛えてたときから、ここでどんだけお世話になったことか。
「じゃあ、兄ちゃんからな」と言って、神官の前に立った猛が、急に「あッ」と大きな声を出した。
「どうしたの?」
「……兄ちゃん、勇者になれる」
「えッ?」
勇者? そんなバカな。
あれって、選ばれし人しかなれない特別職なんじゃないの?
兄ちゃんばっか、ズルイ。