第242話 船旅ふたたび
文字数 1,427文字
研究所に魔法でよったあと、僕らが向かったのは、エレキテルの港だ。ゴドバの船がここに停泊している。
「あの船だな。かーくん」
「うん。けっこう大きいよね。あれなら馬車が何台も入る」
それにしても、ワレスさんといっしょに船の前に立ってるのは、ホムラ先生ではないですか? どおりでさっき、研究所にいなかったわけだ。
「おはようございます。ホムラ先生も行くんですか?」
「まさか! 私は行かんよ? そんな危険な用は君たちの仕事だ。私はただの平和を愛するサイエンティストにすぎん」
いや、あんた、正体は悪魔だからね?
「ホムラ先生。さっき充電してきたんで、百万円」
「おお。こりゃどうも。そうだ。これを持っていきなさい。改良型の携帯充電器だ。これなら、戦闘中、雷属性、または光属性の魔法がとびかったとき、自分にあびなくても充電できる」
「えっ? ほんとですか? 味方が敵に対して使っても?」
「うむ。強い魔法ほど、たくさん充電できる。こっちは付属のモバイルバッテリー」
「助かります!」
今日ほどホムラ先生が神々しく見えたことはない——と思った瞬間、ヒョイっと手が伸びてきた。
「えっと」
「開発料、百億円」
「…………」
絶対、そんなにかかってないよね?
まあいい。これで痛い思いせずに充電できる。
「では、出発しよう」と、ワレスさんに言われ、僕らは馬車ごと船に乗りこんだ。すでになかには二台の大きな軍用馬車が停車していた。猫車をふくめて四台がならんでも、船内は充分に広い。
蘭さんやスズランがはしゃいでる。
「わあっ、船室もたくさんあるんですね。けっこう快適」
「お兄さま。あれはなんでしょう?」
「浮島じゃないかな?」
船の運行は、ワレスさんたちに任せておけば問題ないみたいだ。クルウもいるし、たぶん経験者が乗船してるんだろう。
「ちゃんと、あの場所に行けるのかな? ナッツにも会える? 早く、ナッツのお母さんを助けてあげたい」
「ふつうに海の上をすべってくだけみたいだけどな。魔法の道ってのに、いつたどりつくのかな」
猛は言うんだけど、船は迷うこともなく、どこかへ向かっている。
自動で母港へ帰るって、ほんとだろうか? だとしたら、こうしてるあいだにも、船はあの謎の大地へと進んでるはずなんだけど。
前のときはゴドバのキャラバンに捕まってて、外をのぞいたら、グニャグニャした変な道を走ってたんだよなぁ。空中に浮いてたって言うか。
すると、まもなくして、蘭さんが僕と猛のいる船室にとびこんできた。
「かーくん! タケルさん! キャビンに来てください!」
「えっ? どうしたの?」
「船が浮いてるんです!」
「うん。そりゃ船だからね。沈んだら大変だ」
「そうじゃなくて!」
蘭さんに手をひかれて甲板へ急ぐ。
「あっ、これは!」
「かーくん。あのときといっしょだがね」
甲板にはアンドーくんもいた。表情を固くしている。
「そうだね。いっしょだ。キャラバンがあの大地へ移動したときと」
グニャグニャと黒いような虹色のような、アメみたいなゴムみたいな変な空間のなかを、船はスルスルとすべっている。
周囲はほかに何も見えない。魔法の空間だ。いつのまにか、とっくにこの空間に来てたんだ。
「いよいよだな」と言いながら、ワレスさんも甲板にやってきた。
「ですね。あの廃墟のお城につけば、すぐに、ゴドバと戦闘に……」
「今のメンバーなら負けることはない」
そうだといいな。
ゴドバは強いらしいからね。
気をひきしめてかからないと。