第150話 昼食会

文字数 1,734文字



 お昼の休憩時だ。
 僕らはまたもや屋台へゴー。
 ——と思ったら、軍服を着た王宮兵士が歩みよってきた。

「かーくんさまご一行ですね。こちらへおいでくださいませ。とあるかたから、ご昼食のお誘いでございます」

 えーと、とあるかたって誰だろう?

 トコトコとついてく僕。
 えっ? 無用心? 昨日だって、だまされかけたのに?
 いいんだ。あれはトーマスだったから。それに今なら用心棒(たける)がついてる!

 兵士はあきらかに王宮へむかっている。
 王宮、近くで見ると豪華だなぁ。ちなみに日本のお城だ。姫路城がもっとも近いイメージ。白壁のキレイなお城だ。

 僕らはそのお城のなかへ通される。

 日本のお城ってさ。内部はあんまり広くないんだよね。とくにホールね。僕は二条城、彦根城、姫路城、松江城に行ったことがあるけど、海外建築みたいなエントランスホールはなかった。攻め入られないための建物だから、しょうがないのかな。

 けど、ここはエントランスも広い。外観は日本のお城なのに、妙にモダンなホテルっぽい。

 僕らが案内されたのはお座敷だ。高級料亭風の十二畳に……ああ、タツロウか。もう一人はアンドロマリウスだね——って、ヒノクニの国王様だ!

「ああ、えーと、あの、は、初めまして。お、お招きいただきまして……」
「まあよい。すわりなさい」

 はあ、緊張するぅ。
 さすがにアンドロマリウスは貫禄がある。ホムラ先生とは大違いだ。

 僕らは黒檀(こくたん)の座卓をはさんで向かい側にすわった。
 兄ちゃん、こんなときによくあぐらかいてられるなぁ。僕は正座ね。気の小ささが表れてる。

「私を知っているかね?」と、王様が言う。
「はい。国王陛下ですよね」
「うむ。私はすぐに行かねばならん。単刀直入に言おう。そなたはすでに承知のことらしいからな」

 ん? なんだろう?
 タツロウがいなかったら、僕、逃げだしてるからね。

「じつは、大切なわが姫がさらわれたのだ」

 やっぱり!

「ついては、そなたたちに姫を救出してほしい。頼まれてはくれないか?」

 それにしても、アンドロマリウスの声、イメージそのものだなぁ。すごく悪魔っぽいしわがれ声。英語話してたらカッコイイだろうなぁ。

「……えっ? 姫を救出? 僕らがですか?」
「誰がさらったのか、またどこに監禁されているのかも見当はついている。だが、我らの動けぬ事情がある。くわしくはここにいるタツロウが話す。では、よき返事を期待している。むろん、褒美はとらせよう。ではな。私はもう行かねば」

 アンドロマリウスは去っていった。国王だから忙しいんだろうな。

「タツロウさん。僕らが救出って、どういうことですか?」

 タツロウはうなずいたあと、パンパンと手をたたいて人を呼んだ。豪華な山海の珍味が運ばれてくる。それが終わって、ふたたび部外者がいなくなってから、タツロウは説明した。

「食べながら聞いてほしい。じつはセイラ姫をさらったのは、おれの兄だ」
「ああ……トライアングル」

 セイラ姫とお兄さんは婚約してる。けど、愛しあってるのはタツロウなんだよね。

「知っているのか?」
「ええ、まあ。街のウワサで」

「そうか。ウワサになっているのか。だから、兄の耳にも届いてしまったのかもしれない。兄は怒って姫をつれさってしまった。ここから北のヒグラシ村に、兄の別荘がある。おそらく、姫はそこに隠されているのだ」

「なんで、タツロウさんか、お城の兵隊が行かないんですか?」
許嫁(いいなずけ)とは言え、王女をさらったのだ。そんなことが公になれば、兄は反逆者だ。国王陛下は将軍家との争いを望んでおられない。内密に姫をとりもどしたいのだ。そのためには国軍が動くわけにはいかない」
「なるほど」
「おれが行けば、ますます仲が険悪になる。兄が姫に危害をおよぼすかもしれない……」

 たしかに。それはしかたないね。僕らが助けに行かないと。なにしろ、小説のなかではあるけど、青蘭は僕の子どもでもある。

「わかりました。だけど、僕ら、午後から試合があるんですが」
「あさっての決勝戦のあと、大会の優勝者にメダルを授ける女神の役を、毎年、姫がされている。それまでに帰ってこられなければ、事が皆の知るところとなる。それまでに助けだしてほしい」

 期限つきか。厳しいな。
 だけど、やらなくちゃ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み