第230話 チャレンジ! 最奥の墓

文字数 1,633文字



 墓の前に立つと、どこからか聞いたことのない音楽が響く。いつもの戦闘音楽じゃない。

「あれ? いきなり、さまよう魂が現れた! ってテロップが出てくるわけじゃないんだ?」
「まさか、魔物よけの効果がまだ続いてるんでしょうか?」
「そげなら、魔物呼ぶアイテム使ったらどげだ?」

 いや、どうも違うぞ。

 あわい人影が僕らに向かって問いかけてくる。こ、怖い。オバケが声かけてきたよ?

「おお、人と出会うのは久方ぶりよの。そなたらは、わしに挑むのか?」

 僕は猛や蘭さんと目を見かわした。蘭さんがうなずいて、一歩前へ出る。

「あなたはこの墓で眠る名人ですか?」
「うむ。わしこそは、この世でもっとも強い男。最強の職神だ」

 いやいや、この世じゃないよ? 死んでるからね? あの世でしょ?

「ははははは」とオバケが笑った。「そうかもしれぬな。もう長いこと、ここで待ち続けておるゆえ、あの世もこの世もわからぬようなってしもうた」

 ギャー! オバケに心読まれたー!

「オバケと申したか」
「オバケじゃん!」
「うむ。魂ゆえな。が、これは言わば、わしの生前の記憶。肉体なき存在の名残とも言うべきものか」
「だまされないよ? 高尚な言いかたしても、オバケはオバケだからね?」
「はははははは。ぬしは面白いのう。よい退屈しのぎになりそうだ。よし、そなたからかかってくるがよい」
「えっ? 僕?」

 蘭さんの目が冷たい。

「かーくん。ズルイです。僕が話してたのに」
「僕だって、オバケと話したくないよー!」
「初対面でそんなに親密になれるなんて……」
「いや、だから、オバケと仲よくしたいわけじゃないよ?」

 オバケは磊落(らいらく)に笑う。
「パーティー戦でもかまわんが、その場合、わしはおぬしらの数だけ分身を呼ぶ。よいか?」
「えーと、個人戦なら?」
「一対一だ」

 人数ぶんって、もしかして、クピピコやネコりんたちの数も入るんだろうか? NPCのアジやふえ子も?

「どうする? 兄ちゃん。ロラン」
「個人戦なら、負けてもほかのメンバーが蘇生魔法で生き返らせることができる。ここで全員、さまようことにはならないな」
「そうですね。まず一人ずつで力試ししてみますか?」

 むーん。つまり、みんな、僕でようす見するつもりだな? イケニエにさしだされた僕……。

「わかった。やってみる」
「かーくん。がんばれ。兄ちゃんが骨はひろってやるからな」
「いやいや。蘇生させてくれるって言ったじゃん」
「言葉のあやだよ」
「どっちが? 生き返らせるほうが

じゃないよね?」
「ははは」
「はははじゃないよ? オバケと笑いかたいっしょだからね?」
「ははは。オバケではない。わしは職神だ」
「——って、いつのまにか僕らの会話に自然に入らないでよ? あんた、オバケだからね?」
「職神」
「職神?」
「そう。かつて、この世にただ一人だけ、職業のツボを使うことなく、すべての人間職をマスターした男がいた。それが、わしだ」
「えっ? すべての職? 仕立て屋とか? ドラゴンとか?」
「愚か者よ。よく聞け。すべての

と申したであろう? 個人職、モンスター職をのぞく、すべての職業のことだ」
「なるほど」

 よくしゃべるオバケだな。自慢したいんだな。
 それにしても、すべての職業はすごい。

「えーと、僕、商神をめざしてがんばって、やっとなれたんです。それも?」
「むろん」
「僕らの仲間、賢神とか勇神とかいるんですが」
「すべてだ。それらのすべてをマスターすると、最後に職神という究極の職業につける」
「そうなんだ!」
「人類史上、いまだかつて、職神となれたのはわしのみよ」
「すごーい!」
「やっとわかったか。そう。わしはスゴイのだ」

 ハッ! アパレルショップ店員のサービス精神が発揮されてしまった。お客さまには気分よくお買い物してもらわないとね。へへ。

「ハッハッハッ! そなたは商人の才があるな。商神にふさわしい」
「ですよねぇ」
「さあ、かかってくるがよい。相手になってやろう」

 めっちゃ、きさくなオバケだ。じゃあ、やるか。
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